綺譚集 / 津原泰水

ホラーというよりも怪奇小説と呼んだほうがいいようなレトロの味わいがあります。ドブ川のような醜悪な短編が多いんですが、あたかも清流であるかのように装っているドブ川のような作品(作者の言葉を借りれば、文学的ポーズに執着した俗物根性)に特有の悪臭がそこにはありません。純粋なドブ川、無垢な醜悪さを感じました。キモ美しいというか、グロ幻想的というか。って褒めてんのかコレは。
まあ端的に言って気持ち悪い小説です。とくに最初の2編は読んで吐き気がしたのでしばらく読むのを休みました(紹介してくれたピルクスさんに申し訳無い)。しかしそれ以降はなかなかハマります。文体もいろいろと使い分けているし器用だなと思いました。この人はストーリーよりも文体で勝負する、恒川光太郎あたりとは正反対の作風ですね。


夜のジャミラ

男の子の気持ち悪い独白。読んでるうちにいい感じにキマります。

赤仮面伝

戦前のような古めかしい文体で語られる耽美的な世界。耽美って自分で書いてて具体的に何を指すのかよくわからないんですが、これはまさに美に耽る話です。

玄い森の底から

芸術としての書をモチーフにしています。この作者は美学が好きなんでしょうか。なかなか気合の入った持論があって為になりました。ホラー要素自体はありがちなんですが、美にこだわる主人公の独白と奇妙な文体をもってすると、なんとも鮮烈なイメージが浮かびあがります。一番お気に入りです。

聖戦の記録

悪と異端というテーマといい、ドタバタといい筒井康隆っぽい。

約束

オチが牧野修っぽい。

アルバトロス

くそーなんてエロいんだ。ちょっと興奮してしまった自分が恥ずかしい。

ドービニィの庭で

ゴッホ晩年の作品に取り付かれた人間が悲劇、と見せかけてオチは怪奇現象。この作品もストーリーそのものよりもディティールに見せられました。色彩論なんて初めて聞いた。一応題材になった絵を載せます。個人的には上のほうが好み。

隣のマキノさん

牧野修をネタにした小説。変わった隣人とのかみ合わない会話劇。どこが牧野修なんだと思いましたが一番コレがギャグ入ってるので、そういう笑いをとる姿勢が牧野修っぽいといえば、ぽい。


余談。どうでもいいんですが津原泰水(つはらやすみ)と読むんですね。同じくホラー作家の小林泰三(こばやしやすみ)と名前の読みが一緒です。うわあ。本当にどうでもいい。