人獣細工 / 小林泰三

粒ぞろいで面白い短編集なんですが、邪悪です。表題作は遺伝子工学が発達して豚に人間の臓器をもたせるという話。臓器移植のためにヒトのクローンをつくるよりは、まだヒトの臓器をもった豚を作るほうが倫理的でしょう。しかしその臓器を移植された人間は人と豚のパッチワーク「人獣細工」となるのです。それでも人間だと言えるのか、と読者に問いかけます。それにしても意地が悪いというか救いがない。


中編の「本」は切り口の新しい芸術ホラーです。芸術的なホラーではなく、芸術ホラー。こういう作品が書ける人は本当に鬼才ですよ。
あとこの「本」は小林泰三の諸作品を象徴した小説だと思います。この人の作品は、それまで考えもしなかったし興味もなかった心の領域に、強引に小林泰三ワールドを建造してしまうんです。一度ハマったら最後、血に飢えた吸血鬼の如く、その領域にあるイデアを追い求めてしまいます。そのイデアの影を探してSFやホラーを読み漁り、運良くイデアを色濃く映した小説を見つけたら神が地上に顕現したかの如く「これは凄い」だの「傑作」だのと騒ぎ立てるのです。アホらしいと自分でも思いますが、テーマパークに夢とか不思議とかを求めて通いつめるのと基本的に同じなので、そっとしといてください。