ストレンジ・デイズ / 村上龍

村上龍の描写系の長編。天才的な演技力をもつ巨大トラックのドライバー・ジュンコと主人公の奇妙な生活を通して、現代社会の一端を描く作品。エンタメとしては終わっているので、村上龍が好きな人じゃないと受け付けないでしょう。




「神は細部に宿る」という言葉があるようにディティールは重要です。そしてそのリアルなディティールを書こうとすればするほど、フィクションフィクションした話ができなくなり、ついにはヤマなし・オチなしのストーリーとなってしまいます。村上龍はストーリーとディティールを両立させた傑作を書くだけの力量はあるんですが、この作品では手を抜いているのでディティールを書くだけにとどめています。
そのディティールとは、疲れた中年のおじさんが感じる倦怠感・閉塞感だったり、甘い夢を持たせようとする風潮への漠然とした抵抗感だったりします。
たとえば子どもに向かって「将来の夢はなに?」と訊くのは定番ですが、そのときインタビュアーは別に「絶対に夢を叶えてほしい」とは思ってません。「どうせ夢なんて叶わないけど、まあ子どもだし、夢見させといてやるか。そのほうが大衆受けもいいしな」そんな気持ちです。本当にその願いを実現させてほしいと思うなら「今の目標はなに?」とか訊くべきです。夢という言葉には「まあ別に叶わなくてもいいよね、夢だし」という甘えたエクスキューズが多分に含まれているのです。*1
要するに私たちは、何かをやりたいという欲望を肯定することに及び腰なんです。本当はこうしたいけど、まあ無理だろうし、そのために必死に努力するなんてことは面倒くさいよねー、そういう欲望の誤魔化しが「私の夢はこうなんです」というエクスキューズです。
この作品はこういう村上龍の社会観を中途半端なストーリーで肉付けしただけの小説です。

*1:出た。エクスキューズ。とりあえずこれを言っとけば村上龍っぽいです。