月世界小説 / 牧野修

すべてが言葉によって語られる世界で、言葉を消し去ろうとしてくる敵と、言葉を武器にして戦う勢力の言語戦。言葉を武器にするというのはメタファーではなく、そのままの意味で、たとえば、意味を破壊する爆弾がでてきて、その爆発にふれると、人でも建物でも意味を失ってしまい、結果として(作中世界では)物理的にも無効化される。ほかにも、勝手に世界を書き換えるパターンもあって、意味不明の脚注を勝手に付けられて死ぬ、みたいなこともあり、面白い。ただ、作中世界はすべて誰かの妄想という設定なので、基本的に何でもありの世界になっており、バトルものなんだけどルールが曖昧すぎて勝敗の決め手がよく分からなくなってしまっている。むしろ、次から次へと様々な物語が生まれ、そしてその物語自体が、一つの戦闘にもなっており、また彩り豊かな小ネタにもなっている、その有様が本書の特徴だろうか。
個人的には、古事記も英語で書かれていて、ニホン人全員英語を喋っている世界があるんだけど、そこで、ニホンに固有の言語があったことなんて一度もなかったというふうにみんながめいめい言って、失われた謎の言語ニホン語を調べようとすると周りで不審な事件が起きる、みたいなエピソードはけっこうツボだった。
ただ、全体的にちょっとやりすぎな感じがある。同じ作者なら「楽園の知恵」のほうが面白いかな。