海を見る人 / 小林泰三

ファンタジー嫌いによくあるのが、あの世界には論理がない、という批判です。つまり確固とした法則がないのでご都合主義的な魔法がまかり通り、とても読めた代物ではない、というのです。しかし、完璧な論理のもとでも、奇想天外なファンタジー世界は可能だということを、小林泰三は示しました。たとえば光速が遅い世界でブラックホールの表面近くに作られた村という設定ならば、場所によって時間の流れが違うというファンタジーが可能です。世界全体が砂時計型という設定ならば、ただ旅をしているだけでも異常な光景が待っています。最初の世界設定からロジカルに展開していっても、その軌跡はまるで魔法のように不可思議となる、このセンス・オブ・ワンダーがたまりません。とくに「門」が最高です。