火の鳥

手塚治虫の傑作。漫画史上最も偉大な作品だと思います。これより面白い漫画はたくさんあるだろうけどテーマの重さ、スケールのデカさ、古い作品なのに未だに読まれていることなんかを総合して考えると、やっぱこの偉大さに敵う漫画は他にないんじゃないだろうか。なんでここまでベタ褒めしてるかというと、私自身が最も影響を受けた作品のひとつだからです。小学校に入るか入らないかぐらいの時期にハマって、今思えばこれがセンス・オブ・ワンダー初体験だったのかもしれません。
本当にSFとしても優れた作品ですよ。たとえば、スケールを変えるとこの宇宙全体がひとつの原子であり、逆に人間の原子のひとつひとつが極小のスケールで宇宙全体を内包しているというイメージは今でも鮮烈に記憶しています。この宇宙全体を細胞のひとつに使って生きている生命だっているかもしれないし、逆に私たちの細胞も拡大してみれば宇宙全体を包み込んでいるかもしれない。宇宙ってこんなにスゴイんだ! という感動しました。おそらくこの体験があったからこそSFに興味を持つようになったんだろう。
あと生命や死というテーマもやばかったです。天国や地獄の存在がイマイチ信じられなかった。死んだらあの世に逝くっていうけど、誰も実際に死んだことないくせになんでそんなことわかるんだよと思っていた。そういう「死ぬってなんだよ?こえーよ!」と漠然とした死への恐怖を感じていた子どもにとって「火の鳥」は実に面白かった。そこに等身大の苦悩や恐怖を感じられて感動したんです。「ダイの大冒険」のポップもそういう意味ではかなり泣けたんですが、比べてみるとやっぱりこっちです。
たぶんグレッグ・イーガン「順列都市」 「ディアスポラ」が好きなのは、「火の鳥」の影響だと思います。