ブラッド・ミュージック / グレッグ・ベア

グレッグ・ベアの代表作。クラーク「幼年期の終わり」と「寄生獣」と「犬神」*1を足して3で割ったような話。細胞を極限まで進化させるというバイオホラーな感じ。古典として語り継がれるだけの価値はあります。細胞というのは想像も出来ないくらいミクロな存在で、そんな細胞からしたら私たち人間は宇宙に匹敵するような大きさを持っています。つまり細胞にとって人間は、宇宙全体で計算し思考するような神のごときコンピュータなのです。そんな存在とはたしてコミュニケーションできるでしょうか。これができてしまうんですね。本書では知性を発達させた細胞が出てくるんですが、まあこいつがミギーみたいなやつで人間よりもよっぽど賢いです。


この細胞たちにとってみたら、自分たち細胞がzipファイルで画像をやり取りしているのに、人間たちときたら何十年もかけてナスカの地上絵を造って画像を表現しているんだぜ(笑) って感じで人間の持つ思考の鈍臭さを思い知らされます。デカイからって必ずしも賢いわけではない、というのは考えてみれば当たり前です。この宇宙全体で演算しているコンピュータがあったとしても、そんなにハイスペックじゃないかもしれません。
そしてなんといってもグレッグ・イーガン「万物理論」のような情報力学のくだりがよかったです。これはジョン・ホイーラーが提唱した「ビットからイット(It from bit)」理論です。詳しい話は出てきませんが、こういった話が好きなら大いに楽しめるSFネタが使われていました。
以下ネタバレ。



宇宙には「存在」はなく、ただ「情報」だけがあるとしたら、宇宙の姿は観測者の観測の精度・情報処理能力によってコロコロ変わるはずです。人間よりも知性をもった生命体が宇宙を観測し、その情報を処理するのなら、宇宙の方だってより進化するはず。このように知性の進化という内宇宙の変化がそのまま外宇宙の物理現象とリンクするというアイディアは面白い。

*1:外薗昌也の漫画です。グロ耐性あるなら面白く読めます。マイナーですがなぜかブックオフでよく見かける。