野ブタ。をプロデュース / 白岩玄

白岩玄のデビュー作。イジメられっ子転校生を人気者にすべく、プロデュースする話。学校という誰もが馴染み深い舞台をけっこうリアルに描写しているので面白いです。プロデュースときくとなにやら大げさですが、要はキャラを作る、ということです。「空気読め」という言葉が示すとおり、日常には暗黙の了解として構築すべき空気があります。この空気というのは、その流れに乗っかっとけばとりあえず安心というところがあり、その流れに乗るための船がキャラなのです。空気は場所によって様々な種類があり、そのつど都合の良い船をとっかえひっかえ選んでその場の流れに乗るわけですね。

その造船業が絶望的に下手なイジメられっ子を助けてやろうとする主人公。人を意のままに操ろうとする邪悪な行為とも取れますが、「あいつは○○キャラだから、〜〜だよねぇ」といった具合にこの手の印象操作は誰もが日常的にやっていることです。そこには消極的か積極的かの違いしかないでしょう。
まあオチがあまりにも虚構的でずっこけましたが、エンタメを意識するならこれでいいかもしれません。個人的には話をキレイにまとめるよりも、ぐだぐだのまま終わったほうが現実的でよかったです。
余談ですが、私の親の世代の人が、最近の若者の会話は演劇を見ているようだとぼやいていました。この人間関係のメタ化・キャラ構築の慣習は最近始まったことなのかもしれません。