パプリカ / 筒井康隆

夢のモニタリングや、実際に夢に介入することによって精神疾患を治療するPT(サイコセラピー)技術が発達している近未来。筒井さんにしてはごく真っ当な小説でした。普通にエンタメとしてSFを書いています。初期の短編に見られるような軽薄さは無くなり、重厚というか普通の小説っぽい文章になっています。でも後半になるにつれてドタバタっぽくなるのはらしいと言えばらしい。個人的には少し物足りなかったですが、人に勧めやすい作品です。映画「パプリカ」の方も素晴らしい出来なので、映画から入るのもいいかもしれません。似た作品としてはアルフレッド・ベスター「ゴーレム100」。以下、ちょっとだけネタバレしつつ解説。


DCミニの影響で夢と現実が混ざり合い、無意識に抑圧された化け物が跳梁跋扈するという展開ですが、納得いく科学的根拠をつけてくれたらよかったなあと思います。筒井作品に普段はそんなこと求めませんが、作品の雰囲気が筒井さんらしからぬほどしっかりしているので、ついハードSFとして読みたくなります。夢も現実もどっちも同じ、全てが虚構っていうのが筒井さんの一貫したスタンスですから、夢が現実を侵すぐらいわけない、ということでしょうか。
これが小林泰三なら、脳内の夢も脳外の現実も全てひとつの大きなハードウェア(宇宙)上で走るプログラムにすぎないから、プログラムのバグ(DCミニ)が原因で夢と現実の秩序が乱れてもおかしくない! 現にウィルスにやられたプログラムがOSをぶっ壊すなんて日常茶飯事じゃないか! とかいう展開になりそうです。詳しくは小林泰三「目を擦る女」をどうぞ。鈴木光司「ループ」なんかもその口ですね。