かめくん / 北野勇作

幸いなことにというか、炯眼恐れ入りましたというか、私が「この作品が推されたら機関銃を乱射して選考委員と編集者を皆殺しにして逃走しよう」と考えていた作品に対して、選考委員の全員が「この作品だけは推されないようにと」「この作品を推す人がいたら喧嘩しようと」「この作品をSF大賞にという人がいたらどうしようかと」思って会場に来られた、と口をそろえて発言されたので、あらためて日本SF界、というよりSF大賞の今回の選考委員諸兄の感性の鋭さに敬服いたしました。
……というのが日本SF大賞での中島梓(栗本薫)の選評です。そして壮大にdisられているのはこの「かめくん」ではなく、小林泰三「ΑΩ」です。僕はわりと「ΑΩ」は傑作だと思っているので、その「ΑΩ」を下して日本SF大賞を受賞した本作はどんなにすばらしい作品なのかとずっと気になっていました。
しかしいざ読み終わってみると、すこしインパクトに欠けるんじゃないかな、と。人造のカメ型ロボットがノスタルジックな近未来を生活するというストーリー。たとえば任天堂のゲームが好きな人ならたまらないかもしれません。表面的なかわいらしさの裏にあるちょっとした黒さと申しますか。牧野修のような稚気とコードウェイナー・スミスの雰囲気。