スタープレックス / ロバート・J・ソウヤー

人類・イルカ・六本足のウォルダフード族・統合生命体のイブ族、異種族混合の探査宇宙船スタープレックス号が宇宙の真実を探求する、といういかにもSFらしいストーリーです。スケールの大きな話が次から次へとどんどん押し寄せてきて、息つく暇もないですね。軽妙な筆致のおかげで、あれよあれよという間に読み終わってしまいます。
また、現代科学の難問とされている数々の問題をSFらしく豪快に解決して見せているのは痛快です。ダークマターの正体、重力・電磁気力・強い力・弱い力で宇宙の力を全て説明できるのか、宇宙の年齢よりも古い恒星が存在するのはなぜか、宇宙の質量が膨張・収縮の臨界質量とぴったり一致しているのはなぜか、人間原理は正しいのか……などなど、宇宙論をかじっている人にはたまらないネタがいっぱいです。もちろん予備知識が全くなくても楽しめるようになっています。
統合生命体のイブ族は、共生によってひとつの固体を維持している生物ですが、この描写もよかったです。生命の定義について考えさせられます。
異星人の描写を楽しめた方なら、ヴァーナー・ヴィンジ「遠き神々の炎」、宇宙規模の出来事やダークマターに関心がある方ならスティーヴン・バクスター「虚空のリング」もオススメ。
以下ネタバレしつつ、不満なところを少々。


ここが変だよスタープレックス

ご都合主義すぎる! と思いました。通常物質の生命が生まれた理由、そして銀河の渦状肢が生まれた理由というのがダークマター生命体の美意識だというのですが、もっとマシな理由にしてほしかったですよ。自らの生存のために仕方なくやっていた、とか。遥か未来の宇宙の死を予想して、自分たちにはできない物質量の調整を代行してもらうために通常物質の生命を作った、とか。よりにもよって美意識って。盆栽じゃないんですから。なんとなく始めたボクシングで大して努力もせず世界チャンピオンに成りましたっていうサクセスストーリーと同じぐらい胡散臭いですよ。「はじめの一歩」ほどとはいいませんが、なにかしら納得のいく動機がほしいわけです。ちょっとした動機なのに大成功っていうのがお気楽過ぎて耐えられません。
まあ、天地開闢にご大層な意志や根拠を求めるのはいかにも宗教っぽいですから、そんな態度を暗に批判しているのかもしれません。人間が生まれた理由なんて実に些細なもんなんだよ、人間原理とかたかが人間ごときなのに何様なんだよ、と。……何かを信じるのは勝手ですが、往々にして事実というものは残酷で無情なものなのですから。
しかし、かと思えば人間やその他の通常生命が生きる究極的な意味も明らかになる、というハッピーエンドが待っていたのです。なんというか救いのありすぎるラストです。こんな予定調和的で楽観的な世界観ありかよ? と毒づいてしまいました。登場人物全てが物語に奉仕しすぎていて、彼らを駒のように動かす作者の楽天さが透けて見えます。いや、ハッピーエンドはそれが個人レベルだったり社会レベルだったりするなら歓迎なんですが、宇宙レベルだと違和感を感じます。宇宙ってそんなヤワなもんじゃなくないですか? こんなこと言う私がおかしいのかもしれませんが……。
あとソウヤーお得意のテーマ「中年の危機」も、いまだその年齢に達していない若造だからでしょうか、うっとうしかったです。そんなくよくよ悩まなくてもいいじゃん! しかも「中年の危機」が出てくるのはコレだけじゃないですからね。私以外にもいい加減うんざりしている読者はいるんじゃないでしょうか。
……と、さんざん愚痴りましたが、なんだかんだ言って楽しく読めてしまうのがソウヤーです。夫に不満をこぼしながらも離れられない妻の気持ちです。