スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選

海外作家のアンソロジー。ポストヒューマンとだけ聞くと、人類が絶滅してロボットの時代になったとかそういうのを想像しがちだが、むしろ人類そのものがバイオやナノテクによって変わってしまうというもの。チャールズ・ストロスグレッグ・イーガン、デイビッド・マルセクあたりが面白かった。アンソロジーとしてなら日本人作家の「虚構機関」の方が好きかな。
以下、ネタバレなしの紹介。あと実験的に10点満点で評価つけてみます。

ジェフリー・A・ランディス「死がふたりをわかつまで」 5点

断片的な宇宙史によって、何度も再生して再開しあう男女を描いた話。短いながらもやたらと壮大。

ロバート・チャールズ・ウィルスン「技術の結晶」 2点

サイボーク化した俺かっけー、という話。金属のボディとか正直いやなんですが、機械フェチの人ならわかるかも。

マイクル・コーニイ「グリーンのクリーム」 4点

人類が増えすぎたので、シェルターに生身の体を押し込んでリモートコントロールされたロボットを操縦させて生かす世界。これをやるくらいなら、ずっとネトゲやらせ続けて廃人にしたほうがよっぽどコスト的に安くつきそうだ。

イアン・マクドナルド「キャサリン・ホイール(タルシスの聖女)」 1点

うーん、よくわからないんですが、機械たちがもし神を持つとしたら、それはどんな神なんだろうかって話なんですかね。あまり面白くなかった。文体がちょっと合わなかったのもいたい。

チャールズ・ストロス「ローグ・ファーム」 7点

個人であることをやめる人々が現れた時代。何人かの肉体をどろどろにつなぎ合わせた集合体がライフスタイルとして可能になりました。共同体に埋没した人間が個人として自立せざるを得なかったのが近代ですが、逆にその個人が物理的に共同体に埋没して肉塊になるわけです。共同体であり、なおかつ個体でもある、そんな怪物が主人公に襲いかかる……みたいなホラーではなく、意外とまったり話は進む。テクノロジーが社会をいかに変化させるかが細かいディティールによって描かれているので、話の本筋よりもそうした背景に興味をひかれた。この人の作品は初めてだが次も読んでみたい。

メアリ・スーン・リー「引き潮」 5点

知能や人間性が失われていく病気というのはよくあるが、この世界ではそうした患者を生体ロボットに変える技術がある。今まではどうすることもできなかった患者を、社会に役立つ哲学的ゾンビに変えることができるわけだ。そうした処置をするべきか、それとも何もしないべきか、一体どちらが人間的なんだろうか、という話。

ロバート・J・ソウヤー「脱ぎ捨てられた男」 6点

精神の電子コピーができる時代、コピーされた後のオリジナルに法的な権利はあるのか、という話。うん、ソウヤーは安定して面白い。

キャスリン・アン・グーナン「ひまわり」 4点

超越してしまった人類の行きつく場所というのは何なのか、という話。うーん、よくわからない。クラークと同じように、あまり分からせる気が無いのだろうか。うえお久光「紫色のクオリア」とかのほうが面白い。

グレッグ・イーガン「スティーヴ・フィーヴァー」 8点

信頼と実績のイーガン。今回もナノテクで人間ってそもそも何なんだとアイデンティティに悩む話なんですが、やっぱり楽しいなあ。瀬名秀明「つぐみとひばり」とちょっと似ていると思った。

デイビッド・マルセク「ウェディング・アルバム」 8点

記念日にスナップ写真を撮る感覚で精神の電子コピーが作られる時代、結婚式の日に作成されたコピーたちが、さまざまな時代を経験するという話。コピーは閲覧されているときだけ時間が流れるので、閲覧するのが数世紀ぶりとかだと、その分だけコピーの側からするとタイムスリップすることになります。時代の変遷とともにコピーの法的地位が変わったりして、なかなかすごいです。このアンソロジーで一番驚いた。

デイヴィッド・ブリン有意水準の石」 6点

テクノロジーが進みすぎて全知全能になった人類の話。星新一的な面白さ。

ブライアン・W・オールディス「見せかけの生命」 2点

人類の遺物を発掘する未来の考古学者の話。どことなく寂しさを感じさせる。イーガンとは対極。