虚空のリング / スティーヴン・バクスター

星々が次々に死んでいく、考えられるスピードの何百倍もの速度で銀河が老化していく……この宇宙の危機を解決すべく立ち上がる人類の物語。まさにハードSFの真骨頂―――いい意味でも悪い意味でも。いい意味というのはもちろん、科学知識に裏づけされた論理で、夢にも思わなかった壮大な世界を見せてくれるという点です。SF史上でも例を見ないほどの超巨大構造物リングなんかはまさにバクスターならではでしょう。悪い意味というのは、SFネタに力が入りすぎていて、キャラの魅力やストーリーテーリングに多少問題があることです。でもそんなの関係ない!と言えるのならあなたは立派なSFファン。
以下、ネタバレになります。



バリオン物質(通常物質)と重力以外では相互作用しない暗黒物質というのがあります。ダークマターの正体はこの暗黒物質では無いかとも言われていますがよくわかっていません。本書は、この暗黒物質をもとにした生命体がいたらどうなるのか? というシミュレーションでもあります。
彼らは作中でフォティーノ・バードと呼ばれており、漠然とですがその生態もわかっています。なんと彼らはバリオン物質でできた恒星のエネルギーを食べていたのです。星を殺していたのは彼らだったわけです。このバリオン製の生命全ての敵ともいえる相手に、超知的種族であるジーリーが示した手段はリングを造ることでした。このリングは途方もなく馬鹿でかい上に光速に近いスピードで回転しています。すると、なんと時空が開くらしいです。つまり死にゆく宇宙から脱出できるというわけですね。いやーなんともスケールのでかい話です。
このことに気づいた人類は相当ショックですよ。まず、宇宙の覇権をめぐって争ってきたけど相手にもされなかったバリオンの盟主・ジーリーがいて、そのジーリーすらも敵わないフォティーノ・バードなんてのがいるのです。また当のジーリーは全バリオン生命のためにリングを用意していたわけです。新しい宇宙へ逃げろ、と。うわー!ジーリーさんかっけー! なんというか、このジーリーの慈悲深さを前にしたら、人類の器の小ささがびんびん伝わってきます。一応最後は救いがありましたが、全体を通して悲壮感があり、暗い雰囲気です。ロバート・J・ソウヤー「スタープレックス」楽天的・ご都合主義過ぎてアレでしたが、こうも悲哀たっぷりなのも読んでて疲れますね。暗黒物質を扱ったハードSFとして小林泰三「ΑΩ」もどうぞ。