「BLAME! THE ANTHOLOGY」読書会の模様

映画化もされた伝説のネバーエンディング増殖都市マンガ「BLAME!」を原作に、今を時めく作家陣が好き放題書いたアンソロジー。誰得読書会の課題本にしました。読書会では10点満点で点数をつけて参加者一同で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは飛 浩隆「射線」(平均8.6点)。茫漠としたスケールの大きさ、想像を超える美しい風景の描写といった点が原作とも親和的であり、高評価されました。10点満点つけた人も3人もいました。実際すごい。
以下は、各短編の僕の採点(10点満点)、そして議論の過程で出てきた主な意見の紹介となります。 

九岡 望「はぐれ者のブルー」 6点

  • アンソロジーの入りとしては、とっつきやすくてよかった。
  • 劇場版と近い設定。
  • ほかの人たちが、それぞれの得意技で好き勝手やっている中で、張り合わずに、手堅くまとめている。
  • 読後感がよかった。
  • ブラム原作で主人公が、都市の中で「大地って何だ」ってつぶやくシーンがあるじゃないですか。当然、大地がない世界では青空もない世界ということなので、だからこそ、幻視した青空を求めるストーリーってけっこうよかったですね。
  • うーん、ブラム原作って、圧倒的な都市の中で、そこで生きている凡人とかゴミくずのように容赦なく死んでくじゃないですか。その容赦のなさがブラムの本質だとすると、この作品のような凡人の生活とか、興味ない、って感じです。
  • ブラムには情緒的なものを求めていない。思考の構造がまったく違う生き物を出してほしい。
  • 余談ですが、このアンソロジーって実は「秋山瑞人」アンソロジーとしても読めるくらいにそういう要素がちりばめられていたりしますね。


小川一水「破綻円盤 ―Disc Crash―」 8点

  • ブラム原作って、果てしない都市の風景と、その風景を貫いていく重力子放射線射出装置が本質だと思うんですよ。そのテーマに真摯に向き合ったのが小川一水。天冥の標もそうだけど、どこまでも遠くにいきたい、いや、いけるのだ、という話。仮想現実にこもってどうこうという話じゃないんです。なので、ブラム原作であれだけ希求されていたネットスフィアに、みんな興味がない。小川一水短編の最良の部類だと思う。
  • 一方で、果てを見定める物語なので、果てしなき物語というブラム原作の本質を破壊してもいるんですけどね。まあ、そのあたりもふくめて好きです。
  • 終わりのない都市を歩き続けるというのは、たしかにブラム原作の本質。
  • ブラム原作の良さって異化された単語だとも思うんですよね。統治局とか、代理構成体とか、それだけでカッコいい。そういう意味で、本作品も、検温者という、お前温度を計ってるだけじゃねーか、というやつがでてきて、よい。検温て。しかしそのデータの測量が世界の構造に対する仮説の検証になっているということなので、面白いですね。
  • ブラム原作は、人類は衰退しているが、この作品では、天冥の標的な、世界がどんなに破壊されても、また立ち上がるという希望を感じる。コミュニケーションによって、ヒトが変わっていく、ヒトじゃない知性ですら変わっていく、というあたりとかも。
  • ブラム原作は違くて、もっと希望ない感じですよね(笑)
  • 珪素生命と統治局が共存するとかもありえないし、異種族が協力して自分たちの町を作り上げることもありえないわけですけども、そこがよかったです。
  • 小川一水作品は、足を引っ張るやつがいない、みんながより秩序を増す方向に動く感じ。
  • うーん、身も蓋もない言い方をあえてしますと、小川一水さんの作品って個人的にアレなんですよね。だからこの作品も微妙でした。タイトルで、円盤とか書いちゃうところとか、開幕ネタバレだし、ちょっと嫌かなあ。あとキャラがみんな同じような感じで飽きちゃうっていのもあります。
  • ブラム原作だと、重力の方向もコントロールする技術があるわけだけれども、この作品の住人はそういうことを知らないので、ゼロベースで都市が太陽を覆う大きな球体の上にあるのか(太陽は下方向)、回転する円盤で遠心力をつくっている(太陽は上方向)のか、ようわからん、ということなんですね。そうすると、太陽に近いほうが気温も高いだろうということでひたすら検温しておく、と。で、回転しない円盤(太陽は下方向)だった、と。
  • そうやって、ブラム原作では絶対に出てこなかった都市を外から眺める視点がおもしろいですよね。

野崎まど「乱暴な安全装置 −涙の接続者支援箱−」 5点

  • 暴れん坊将軍パロディ。だが、物足りない。
  • このアンソロジーの中では、お笑い枠。
  • 話自体はわかりやすいが、最後は拍子抜け。もうちょっとミステリを残して終わってほしかった感じ。
  • 珪素生物の黒幕出てくるけど、完全にかませ犬の悪代官。原作の強敵感ゼロ。野崎まどは「know」は設定が作りこまれていてよかったが、このお気楽さはいかがなものか。
  • 最後に統治局無双になるの、よかった。ブラムといえば、これ。やっぱ皆殺しにしてほしい。よっしゃよっしゃ。
  • うんうん、わかる、統治局のセーフガードはこんなやつだよ。正解だよ、正解。
  • どうか、正解されたい。
  • 野崎まど、ある意味ではブラム原作の殺伐さを正確に把握している。
  • ネット端末遺伝子がないと接続できないという前提を覆そうとしている姿勢は評価したいが、その前提の穴の穿ち方が、雑。派手でもなく、緻密でもない。やっていることがDOS攻撃て。
  • 接続者支援箱、というのがよかった。接続できない人向けのお助け装置ってシステム構築するうえであってしかるべきだし、それが機能を忘れ去られて神聖な祠みたいになってるのも、ブラム原作っぽくてよい。
  • ちょっと今回は微妙。読書会で毎回野崎まど作品を読んで楽しめていた。ファンだからこそ、今回は厳しく評価したい。滑っている感もある。馬鹿じゃねえのwww とずっと思いつつ読んだ。
  • それは私も思った。

酉島伝法「堕天の塔」 3点

  • 階層世界の外に出ようとした小川、階層世界の風景を描いたのが飛、階層世界を落ち続けているのが酉島、三者三様のアプローチが面白かった。なにがなんだかよくわからなかったが、小ネタがよかった。ネットスフィアから切り離された、寂寥感とか。あと、なぜ落ち続けて、墜落しないのか、というネタもよかった。
  • 統治局の代理構成体は、ダウンロード版なので、劣化コピー。自分たちは本体だと思っていたが、実はその情報は本体側に回収されないことになる。なぜかはわからない。
  • 統治局の代理構成体は一体なにを発掘しようとしていたのか、なぜ彼らは本体の情報を制限されているのか、謎。よくわからない。飛「魔法」(「ラギッド・ガール」収録)は同じような、アバターのさみしさを感じさせる作品。
  • 申し訳ないが、酉島さんの作品は毎回、挫折してた。読んでらんねえ、と思っていたけど、今回はちょうどよい。最後まで読めた。わけわからんけれども、空気感がよい。ブラム原作の、無限に構造が続いている感、果てしない感はあった。士郎正宗作品的な、設定は複雑だけど、やっていることはシンプルな感じ。
  • 酉島さんは、よくわからない話ばかり書いているイメージがデビュー作当時からあったが、実は、まっとうな話だと思う。ざっくり、どういう話かというと、ブラム原作の終盤に出てきたおしゃべりモリの起源が、統治局の代理構成体に由来していた、という話。
  • 初めて酉島作品を読んだが、ちょっと僕のレベルではついていけないなあ、という気がした。状況を把握できない。塔が落ちているのがわかったが、そもそも塔がどういう状態なのか、わからなかった。原作の要素(穴が重力子放射線射出装置によってできたものだったりとか、通り過ぎる風景に原作登場の都市が出てくるところとか)が垣間見えたのはよかった。
  • 落ちていく中で自分たちの姿が見えた、というのはよくわからない。
  • けっこう雰囲気で読んでいるのだが、この作品はディティールをすごい楽しめた。主人公たちのおしゃべりのような謎の遊びも面白かった。
  • 謎世界を、その人たちの世界感で書いているので、さらっとエンタメとして読みたいときは、つらい。

飛 浩隆「射線」 8点

  • これはいいですよ。小説は、マンガに風景で勝つことはできない、すでにディスアドバンテージを背負っている。ゆえに、思考の量とかで勝とうとする。しかし、オン作品はそうではない。数万年単位の風景の移り変わりを書くことで、マンガに勝とうとしている。
  • ほかの作品と違って、ひたすら風景が流れているのが、ブラム原作っぽい。そして時間的スケールが長い。霧亥の戦いが神話的に伝わっているところもよい。
  • ブラム原作の主人公を描写しちゃっているところもよかった。やっちまったぜ感。大河ドラマとかみてても、歴史かわんねーかなー、と思っていたりするので、原作完全準拠よりも、こういうのが面白い。
  • よみがえってもまたこいつ銃撃ってるなー。だがそれがよい。
  • 環境調和機連合知性体とか、原作とは違いすぎて、俺設定が多い印象。説明多すぎて、逆にスケールを小さく感じる。
  • 逆にそれが面白かったですけどね。都市の広がりのなかに充満している環境そのものが、無機的でなく、エモーショナルに霧亥たちを慕っている、というところとか。
  • 環境に穴が穿たれたことで、その痛みで、環境に意識が生まれた、というのも面白い。伊藤計劃「ハーモニー」でもこういう話ありましたね。
  • 簡単に言うと、「うちのエアコンがメンヘラなんだが」。
  • すごい好きなんですけど、あまり説明できない。
  • あとがきで、ブラム原作が水木しげるっぽい、といっていたが、納得。広大な自然の中で、小さなキャラが、ぽつんと、ある。
  • この作品の裏側になにかあるんじゃないか、と思っている。が、それが見つかっていない。それがわかれば、もっと高評価になるかもしれない。
  • いいところはたくさんあるが、まずスケールが広いのがよい。空すらぽろっと出てくるし。ブラム原作の最後(遺伝子発見後)とつながってる話なのかな、とも思った。本書363pが、ブラム原作の最後から3ページ目と似通っている気がする。あと、ブラム原作で霧亥が最後の手を突き出すところとかもオマージュされている。
  • 環境調和機連合知性体は、シボとしてふるまおうとしているのだろうか。霧亥を思慕している存在、みたいなのはちょっとでてきたし。しかし、シボらしき人物も客観的に描写されており、環境調和機連合知性体がシボとイコールでないことも確かであるため、整理が難しい。
  • 原作のなかでちょっとしか触れられなかった時空隙の設定を活かして、高度なロストテクノロジーをサルベージするのに使う、という膨らませ方もよかったですね。

(おまけ)BLAME!劇場版 7点

  • 劇場でみると、重力子放射線射出装置の音響とか、空気が震えて最高だった。
  • ブラム原作ではほぼモブキャラだった方々も、かわいくなって登場していてよい。
  • サナカンさんもすっかりかわいくなっちゃってましたねぇ。
  • なんかえらく嬉しそうに村を焼き払ってましたね。
  • サナカンさん、ブラム原作からしてそうなんですが、ボディの造形とかいいですね。
  • 作品としては、可もなく不可もなく、ですかね。特にいうことはありません。
  • 原作ファンからすると、ブラムにはこんなん求めてなった。
  • そうですねえ、いきなりモブキャラの生存戦略に焦点が当たってまして、ちょっと違和感ありました。
  • 霧亥が登場するたびに、ジャラーンって効果音鳴ってて草生える。
  • まったく気づかなかったですが、改めてそのシーンだけ切り出してみると完全に草。
  • えらくオリエンタルな効果音ですね。なんですかね、異人感を出したいのかな。
  • 異人が来りて、敵倒す、みたいな話ですからねえ、これ。