私の恋人 / 上田岳弘

何を書いても地球規模、少なくとも文明の栄枯盛衰は書くし、なんだったら人類も軽く絶滅させる……という作風で一部の界隈で人気を博している上田岳弘が、これまたすっごいパーソナルでテーマで勝負してきたなあ、と思って読んだ。内容は、理想の恋人を妄想する男が、その理想を満たす女性に実際に出会うことなく死に、なぜか転生し、また死に、三度目の正直とばかりに今生の生でなんとか「私の恋人」に辿りつくという話だった。全然パーソナルじゃなかった。というか、人生を三度繰り返してやっと辿りつくって、恋人に求めるハードル高すぎるんじゃないですかねえ。まあ、この辺は一周回ってもはやギャグとして面白いのでよいです。
本題としては、その三回の生と対応する形で、人類の歴史も振り返っているところですね。人間は三度の大きな運動を経験するとのことです。一つ目は、全ての大陸に人間が伝播していった過程。二つ目は、その全ての大陸の人間同士がいかなる価値観によって統べられるか、というイデオロギーの闘い。ちなみに、これは自由主義・資本主義が勝ったことになっています。そして三つ目は、人工知能と人間の闘い。まあ、このあたりの話は小林「AIの衝撃」にも書きましたが、かなり面白い仮説を立てています。ただのハチャメチャな小説ではなく、ハッとさせられるところもありました。