コインロッカー・ベイビーズ / 村上龍

僕たちは世界を変えることができないなんて白けてるやつはいなかった。かつては。
村上龍が高校生だった60年代、安保闘争は現在のしょぼい就活反対デモや格差反対デモの比じゃないくらい熱気があった。社会主義者たちの革命によってつくられたソ連がまだ元気だったからかもしれない。なんだかんだで景気がよかったら無茶しても食っていけたからかもしれない。
とにかく、何かを変えられる気がした。
とはいえ、村上龍のデビュー作「限りなく透明に近いブルー」は陰鬱で気だるいものだった。この当時、彼はおそらく白けていた。高校生のころ、彼は学生運動してると女の子にもてるという安易な動機から学校をバリケードで封鎖し、革命のまねごとをしていた。やはり非常に楽しかったらしく、この当時をほぼ史実通りに書いた「69」からは生き生きとした空気が感じられる。だが、学校を封鎖しようが、市場経済が終わるわけではない。たかが一学生のできることなど知れている。安保反対、So what? それでも日常は終わらないのだ。
とりあえず書いてみたらなぜか評価されてしまった「限りなく透明に近いブルー」に比べ、「コインロッカー・ベイビーズ」は村上龍が本気出して書いた小説だ。この作品は、高校生だった村上龍が持っていた根拠なき自信を、沼の底からすくいあげる救出作業だ。僕たちは世界を変えることができないなんて白けてるやつをぶちのめす小説だ。
結局のところ、現実において革命未だならずなのであるが、革命の熱量は琥珀のようにこの小説に保存され、今も見る者の心を揺さぶる。