森村進教授の講演会 〈 これからの「家族」の話をしよう 〉 がすごい件 part1

2010年11月23日の駒場祭での森村進教授の講演の書き起こしです。非常に面白いですよ、これは。
東京大学法律相談所主催で行われた家族法改正講演会「これからの「家族」の話をしよう」では、夫婦別姓同性婚などについて、大村敦志先生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、棚村政行先生(早稲田大学大学院法務研究科教授)、千葉景子先生(元法務大臣)、森村進先生(一橋大学大学院法学研究科教授)といった方が討論されました。以下、書き起こし本文になります。

イントロダクション

紹介いただきました、一橋大で法哲学を教えている森村進です。今日のスピーカーの中では、私ひとり、家族法についてそれほど専門的に研究したわけではないのですけれども、それにもかかわらず、ここにお招きいただいたのは光栄に思っております。
私がなぜ招かれたかというと、私が法哲学者として、この問題についてかなり極端な事を言っておりまして、そういった極端な考え方が家族法制度について根本的な見直しをするのに役立つと、主催者の方が考えているからだと思います。
私は、家族法改正について、それほど積極的にお話することはありません。あえて言えば、この程度の改正(夫婦別姓)では生ぬるいと思っております。婚姻制度そのものを廃止してもかまわないとさえ思っています。こういった提案は、リバタリアニズム(個人の自由を尊重しよう)という立場から来るものです。詳しくは私の拙著「自由はどこまで可能か」において、一章を割いて家族法について論じていますので、そちらを参照してください。とはいえ、それではあまりに不親切ですので、まずは基本的な私の立場を紹介したいと思います。


リバタリアニズムの家族観

家族、あるいは学界でしばしば親密圏という言葉が使われますけど、その形成に関わる個人の意思を尊重するなら、法は特定の結婚制度を強制すべきではない。結婚というのは、特別の法制度として廃止すべきである。それはむしろ、当事者間の関係的な契約civil unionとして構成されるべきである―――これが私の立場です。
そうすると、期間を定めた婚姻・条件付きの婚姻・同性カップルの婚姻・3人以上の婚姻というのも許容されることになります。
今言ったことは、家族の親密な関係を重視する考え方とも、あるいは家族が経済的な社会の中で、消費の単位householdとなっていることを重視する考え方とも、対立しません。むしろ、そうした考え方と法律の一夫一妻制が結び付く必要はないわけです。


家族法制度が前提としている建前

多くの家族法は、家族についての特定のイデオロギーのもとで成り立っています。つまり、夫がいて、妻がいて、子どもがいる、そうした家族のみが想定されているわけです。
それが体現している考え方は何かというと、社会学者の上野千鶴子がロマンチックラブ・イデオロギー、と呼んだものです。つまり、「愛情と性と結婚が三位一体化している、それも一人の男と一人の女のものでなければならない」、こういう考え方が体現されているわけです。
具体的な法制度では、一夫一妻性・夫婦間の同居義務、貞操義務、夫婦の間でできた子ども以外の子どもを差別する嫡出子制度が挙げられます。


Civil union の導入

本日の家族制度では、そのように規定された家族しかありえないわけですけれども、その代わりにcivil union(パートナーシップ契約)の制度を制定するべきだと思います。現在の婚姻制度は強行規定で、それ以外の関係は禁じられていますが、ちょうど民法の売買契約の規定のように、ひな形のようにcivil unionをおいておけばいいわけです。
危険負担や手付のように、あらかじめ民法が契約のひな型を定めておきますと、当事者間でいちいち決める必要がないので、経済学的に取引コストの削減ができます。それと同じように、civil unionの制度を決めておいて、その内容とは違う契約をしたい人は、その契約ごとに変えていけばいい、ということであります。


さて、こういう考え方は、私の独創でもなんでもないわけです。たとえば、法学者でいうと、中央大学憲法を教えておられる安念潤司さんという方が、こういう制度civil unionの考え方をしています。また哲学者の橋本祐子さんという、九州産業大学の准教授の方もしておられる。アメリカでは、ノーベル経済学賞受賞者のゲイリー・ベッカーや、オバマ政権のブレーンの一人キャス・サンスティーンもしておられる。
またマイケル・サンデルの著書でも、同性婚を認めるべきかが最後のテーマとして挙げられています。サンデルは、同性婚には賛成しておりますし、そもそも国が婚姻制度を「これは認める、これは認めない」と法律によって規制すべきでないというcivil unionの立場も紹介しています。ただ、どういうわけかこの第三の立場についてサンデルは意見を述べていません。


契約による秩序の射程と子どもの権利

ただ、私が今述べたことは家族制度の中の婚姻制度に関わる部分にのみ、当てはまる話です。つまり、理性のある自律的な大人の結ぶ契約ですので、自由でかまわないわけです。家族制度の中で無視できないのは、未成年の子どもを誰が育てるか・誰が親権を持つのか、という問題です。これはやはり法律で定めるしかありませんし、やはり子どもを育てるのは両親の義務とするべきでしょう。それが子ども自身の福祉・幸せにとって望ましいはずです。詳しくは拙著を読んでください。