フレームシフト / ロバート・J・ソウヤー

ヒトゲノム・センターに勤務する気鋭の遺伝子学者ピエールは、帰宅途中、ネオナチの暴漢にあやうく殺されそうになった。ネオナチとなんの関わりもないのに、どうして狙われたのか? やがて、自分が連続殺人事件にまきこまれていると知ったピエールは、事件の謎とみずからの研究課題であるヒトゲノムに隠されている秘密に命がけで挑んでいく……というストーリー。
ほぼサスペンス一色なので、一般受けすると思います。あとテーマが非常に倫理的で、人種差別・遺伝子操作などの問題をリベラルに扱っています。遺伝学に関する薀蓄はけっこう専門的でしたが、それなりに楽しめました。ただちょうどiPS細胞に関する科学記事を読んでそっち系の知識をつけていたから理解できただけなので、置いてけぼりを食らう読者もいるんだろうなあコレ。
そしてラストはあまりにもキリスト教的で腰砕けです。科学と宗教はまぜるな危険だとあれほど言ったじゃないか! 勘弁してくれよソウヤー! いや、政治的なスタンスとして「人類みな平等」というのは歓迎なんですよ。困るのはその理由として「神がそのように私たちを創ったからだ」なんていう理屈をもってくることです。そんな理屈いらないですよ。「人類みな平等」のほうが都合がいいから「人類みな平等」というふうにもってくだけで、そこには森羅万象に込められた設計者からのメッセージなど全く必要ないのです。そういうものがあったほうがキリスト教的には嬉しいんでしょうが、そういうものは無いし、あたかもそれがあるかのように書くのはたとえSFでも罪深いですよ。「神なんていない。造物主なんていない。だから神の前での平等なんてない。だけど、だからこそ、私たちは人類みな平等という世界をこれから創るのだ」という意気込みがほしいんです。まあキリスト教徒的にはアウトなんでしょうが。それにしても……。
でもこれだけ言うのはエンタメとして及第点を取っているからです。エンタメとしては面白いのに変なメッセージ性があってやだなあ、と不満なんです。