拡張幻想

年間日本SF傑作選の2011年のもの。
だいぶシリーズとして定着してきてはいるが、長くやっているため当たりの年、外れの年が出てくるのは仕方がない。この年は面白いものは抜群に面白いが、つまらないものがなんか多かった、という印象。ベストは円城塔「良い夜を持っている」。
以下、ネタバレで面白かったものだけ紹介します。

小川一水「宇宙でいちばん丈夫な糸 ――The Ladies who have amazing skills at 2030.」 6点

カーボンナノチューブで編まれた糸という、軌道エレベータの材料になるくらい異常に頑丈な素材の話。物質的特性の素晴らしさにワクワクさせられるが、それ以外の話はしょうもない。

神林長平「いま集合的無意識を、」 5点

神林長平伊藤計劃と対談する、という話を神林長平自身が書いていて、なんかすごい微妙な気持ちになりました。

伴名練「美亜羽へ贈る拳銃」 8点

これも伊藤計劃トリビュート作品。脳内のニューロンの結線を固定化し、愛情という感情が揺らがないようにするテクノロジーなんだけど、これがアイデンティティの問題と絡みついていて、イーガン的な面白さがあるんですね。誰かを愛しているというとき、その愛の対象である“誰か”とは、一体どのようにして定義されるのか。機嫌がいい時もあれば悪い時もあって、その時々によってその人の行動パターンなんて変わってしまうものなのに、そこに一貫したその人の本質というものを見出せるのだろうか。その人の一側面だけを愛しているからと言って、その人の丸ごと全てをちゃんと愛していると言えるのだろうか。

木々津克久フランケン・ふらん ―OCTOPUS―」 8点

バイオホラーなブラックジャックといった感じ。非常に面白かったです。こういう一話完結ものってなかなかないですよね。全巻買いましたが、1巻がグロすぎた……。

円城塔「良い夜を持っている」 10点

「これはペンです」収録。SFネタも面白いし、めくるめくイメージも素晴らしい。

理山貞二「〈すべての夢|果てる地で〉」(第3回創元SF短編賞受賞作) 7点

SF(とくりディストピアもの)の存在意義を一応説明していて面白い。ネタバレになってしまうけど、ある種の知性がなんらかの別世界を妄想した瞬間に、そうした世界が量子力学的に観測されたことになり、と同時に数多ある世界線の中で、当人がその住んでいる世界は少なくとも、妄想上の世界とは異なる軌道をたどることが確定する、というもの。つまり、ディストピア小説を書いたら、その小説を書くという行為によって、決してその小説は現実化しない(小説とは別の世界が観測される)ということで、まあ細かい論理の穴はすべて無視して面白いよね。