だいぶシリーズとして定着してきてはいるが、長くやっているため当たりの年、外れの年が出てくるのは仕方がない。この年は面白いものは抜群に面白いが、つまらないものがなんか多かった、という印象。ベストは円城塔「良い夜を持っている」。
以下、ネタバレで面白かったものだけ紹介します。
小川一水「宇宙でいちばん丈夫な糸 ――The Ladies who have amazing skills at 2030.」 6点
カーボンナノチューブで編まれた糸という、軌道エレベータの材料になるくらい異常に頑丈な素材の話。物質的特性の素晴らしさにワクワクさせられるが、それ以外の話はしょうもない。
伴名練「美亜羽へ贈る拳銃」 8点
これも伊藤計劃トリビュート作品。脳内のニューロンの結線を固定化し、愛情という感情が揺らがないようにするテクノロジーなんだけど、これがアイデンティティの問題と絡みついていて、イーガン的な面白さがあるんですね。誰かを愛しているというとき、その愛の対象である“誰か”とは、一体どのようにして定義されるのか。機嫌がいい時もあれば悪い時もあって、その時々によってその人の行動パターンなんて変わってしまうものなのに、そこに一貫したその人の本質というものを見出せるのだろうか。その人の一側面だけを愛しているからと言って、その人の丸ごと全てをちゃんと愛していると言えるのだろうか。