IFRSに異議あり / 岩井克人・佐藤孝弘

IFRSは2012年に上場会社に強制適用するかどうかが決定され、最速で2015年に強制適用が開始します。会計基準グローバル・スタンダードなどという文句とともに、導入は既定路線です。しかし、このIFRSは理論的に問題が多いのです。従来の日本基準は、すでに「実現」*1 した利益がどれだけかを重視する収益費用アプローチをとっているのに対し、IFRSは利益を「実現」したかどうかを重視しません。むしろ利益が「実現」する前から、企業が持っている資産をすべて時価評価にさらし、企業価値がどれだけかを企業の側で推定すべきだと言います。そのためにまず企業が持っているストックである資産と負債を確定しなくてはならず、これがIFRSの資産負債アプローチです。
収益費用アプローチが、企業の過去の業績がどれだけだったかを明らかにするのに対し、資産負債アプローチは、株主の持分権である純資産(資産−負債)がいくらかを推測するものです。つまり、企業が将来生み出すであろうキャッシュフローがどれだけかを見積もり、その割引現在価値がどれだけかを明らかにし、もって投資家の判断に役立てよう、というわけです。会社が投資して運用している資産・事業の価値がわかり、かつ、債権者の取り分である借金の額がわかれば、その残りが自動的に株主の取り分、ということになります。
要するにIFRSは、今まで投資アナリストがやってきた企業価値の推定を企業の側でやらせようという会計基準なのですが、ここに問題があります。なぜなら、業績を良く見せたい企業側に、自らの企業価値を推定させると、どうしても恣意的になってしまうからです。
金融業みたいに資産の流動性が高く、市場で売ったらどの値段で売れるかがはっきりしている業種だと、時価評価がなじむのですが、製造業みたいに資産の流動性がないものに時価評価はなじみません。製造業の資産である工場や部品の在庫の価値は、もしその商品の市場があったらこの値段だろうと推測するしかなく、どうしても企業の主観に頼ったものになってしまいます。それだったら最初から取得原価で測定したほうがよっぽどいいわけです。
IFRSを主導しているイギリスは金融業が多く、時価評価のメリットは高いのですが、日本では製造業が多く、時価評価のメリットは低いのです。だからグローバル・スタンダードだから導入しようなんて思考停止せずに、自分たちに不利な基準なら採用すべきではないでしょう。どうしても、海外での資金調達の必要からIFRSを導入したい企業がいるのなら、そういった企業が任意に選択できるようにすべきで、どんな企業にも強制適用するなんて傲慢です。

*1:外部の者に対してサービスを提供し、その対価としてキャッシュを受け取ること