カイシャ維新 / 冨山和彦

カネボウの再建に関わった実務家の立場からコーポレートガバナンスについて論じた本。著者は「会社は株主のものだから、株主の意向に従うことが正義だ」という株主主権論に疑問を抱いています。なぜかというと、株主は残余請求権者なので、株価が一定以上になれば儲かるけど、それ以下だと全く儲からないという、 コールオプションの買い手のような立場にあるからです。オプションの買い手というのは、一般的にリスクを好みます。なぜなら、たとえ損をしてもその損失は限定的なのに対し、利益が出た時は青天井だからです。だから手堅く守るよりも、博打のような攻撃に出ることが、株主にとっては合理的なことがありうるわけです。
しかしこれは、安定的に儲けてほしい従業員や債権者にとっては困ります。会社が長期的に繁栄することを目的にするのなら、株主主権よりも債権者主権のほうがむしろ望ましいとすらいえるかもしれません。

著者は、株式をオプションとしてとらえ短期的な利益を追求する株主が会社の経営に口を出すことに苦言を呈しています。代替案として、長期的に株式を保有し、会社の経営も長期的なスパンから考える国策ファンドがあればいい、と言います。個人的には、公共の利益の名の下に、儲からない分野に資本が投下されて、非効率的な資源配分が実現してしまいそうで嫌なんですが、ウォーレン・バフェットみたいな偉大な投資家が運用者になれば上手くいくかもしれません。