文学部唯野教授 / 筒井康隆

人生でもっとも多く読み返した小説ベスト10に入る。文学部の教授である主人公が大学内の権力闘争に巻き込まれながら、文学の何たるかをを模索するというストーリー。半分が教授による文芸批評の講義なんですがかなりためになります。さくっと教養を身につけたい人にうってつけです。文学と哲学について議論したいのなら、とりあえあず読んでおいて損はないです。文学に傾倒しそうになったらこれを読んで目を覚ますという使い方もできます。以下ネタバレ。
学内で起こる事件の数々は現実に起きた事件です。それらの事件をひとつの大学にまとめてぶちこんだため、ドタバタになっていますが、実際このような狂気の沙汰だったというのは面白い。文学部の教授には絶対なりたくなくなります(笑) 
そして講義の部分も素晴らしい。大学生の必読書です。文学がいかに政治や社会によって左右されているか、文学の俗っぽさがテーマなのかなあ、と思います。俗っぽいことを必死に隠してあたかも崇高な真理のごときに振舞うけど、そのように必死になってること自体がすでに俗っぽい、というようなどうしようもない俗っぽさ。
ラストでは主人公がサイン会をするという低俗な販促活動をいやいやながらも引き受けるんですが、そこで主人公はこう思います。おかしいなあ、擬似体験的には海千山千のおれがなんでサイン会ごときで浮かれているんだろう、と。それまでの教授たちの醜い権力争いやマスコミの横暴に辟易して、俗っぽいことにさんざん嫌気がさしているわけです。難解な文学理論をこねくり回した講義の最後には、究極の文学理論をぶちたてるという、世俗を超越した決意も見せています。そんな主人公が幸福を感じたのが、あの俗っぽいサイン会でありかわいい女の子だったのです。なんという俗物……! でもこのラストは好きです。通俗性から逃れられないけど、俗っぽくてもいいじゃないかという俗物賛歌。不覚にも感動しました。唯野教授は筒井作品の中でも一番好きな主人公かもしれない。