ループ / 鈴木光司

鈴木光司「リング」シリーズ第3弾。前二作に残した謎をほぼ解明した完結篇。これは人によってかなり評価が分かれると思います。でもかなり好みでした。
以下ネタバレ。







今までの世界は全部仮想現実でしたーっていうのはたしかにインパクトあるんですが、ともすれば「夢オチかよ」という不満も生みます。しかし、個人的にはかなり衝撃でした。なぜかというと仮想現実ネタをはじめて知ったのがこの本だったからです。たぶん多くの人が「マトリックス」ではじめて、このデカルト直伝の哲学的難問にぶち当たるんでしょう。
「もしかしたらこの世界は仮想現実かもしれない。なのに自分は仮想現実と現実の区別をつけることが絶対にできない」
SF界隈ではもはや使い古された感があるネタですが、初見のインパクトは凄まじいものがあります。自己の存在の基盤を揺るがすような、日常を非現実的なものに変えてしまうような、そんなホラーじみた体験ができるでしょう。
また仮想現実ネタを使うことで「この宇宙はなぜできたのか? なぜ無から有が生まれたのか?」という疑問にも答えています。たとえばこの宇宙がどっかのコンピュータ上でシミュレートされているプログラムなら話は簡単です。だれかが電源のスイッチを押したんでしょう。そのスイッチの瞬間がビッグバンなのです。つまり無から有が生まれたのではなく、プログラムが停止している状態が「無」で動いている状態が「有」だったわけです。
なるほど。ということは「はじめに言葉ありき」というのはまさしく本当だったわけですね。「はじめにプログラムコードありき」。そして神の一押しで世界の電源がonになり、宇宙が開闢した、と。
それが本当かどうかなんて誰にもわかりませんし、たとえ本当だったとしてもどうでもいいことです。いや、どうでもよくないか。神だって気まぐれでこの世界のルールを捻じ曲げるかもしれないしな。というわけで保険をかけてこう言っておきましょう。
おれはこの世界が仮想現実だってことに気づいてるぜ! ざまあ! 
とはいえ、こんな一言で世界が変わるなんてことはありえません。セカイ系じゃないんですから。でもトンネル効果がマクロの世界でも起きる可能性がゼロではないように、なんらかの可能性が残されているのかもしれません。
「こんな夢想にほだされているからSFなんかにハマるんだ! いいかげん現実を見ろ!」
ええ、わかってますよ。ギャグに決まってるじゃないですか。と言いつつも心のどこかで「もしかしたら……」と夢見てしまうのはもはやSFファンの業。人はそれを「宗教」と呼びます。妄信しないように気をつけたいものです。