アリス―Alice in the right hemisphere / 中井拓志

幽閉されていた一人の少女が原因で60名を超す人間が同時に意識障害を起こす惨事が起こるとか、なんかこうありがちですけどいいですよね。瀬名秀明「BRAIN VALLEY」アーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」を足して2で割って、複雑系で掛けた作品。
専門知識が頻発されますが、あくまでも一般人が理解できるように抑えられているので、十分エンタメしています。引き込まれてついつい一日で読みきってしまいました。フラクタル次元の話が出てくるので、ある程度知識があればより楽しめるでしょう。下記のサイトがわかりやすくて参考になります。
http://www.hokuriku.ne.jp/fukiyo/math-obe/dim-fra.htm
例えば、リアス式海岸のようなフラクタルな図形は1次元の線で捉えようとすると無限の長さを持っているとされます。正確に測定すれば測定するほど、どこまでも細かく入り組んでいるからです。しかしそれを2次元の平面で捉えると、単なる一本の線にすぎず、平面全体からすれば無限に小さいと言えます。1.2次元とか1.4次元とかいうのはそういうものです。
また高次元に対して1次元は愚鈍で低レベルという話があるんですが、これを感覚的に理解するとこういうことになります。
―― この一本の線は1次元です。この線だけを使って2次元の円や3次元の球を表現するとこうなります。

  • 円は、ある線分 ―― をその中点を軸に180°回転させた軌跡である。
  • 球は、ある線分 ―― をその中点を軸に180°回転させた軌跡を、その直径を軸にさらに180°回転させた軌跡である。

すげーまだるっこしいです。しかし1次元の世界の住人にとってはこの理解が限界です。それを2次元や3次元のより高度な世界に住む私たちは直観的にこう理解できます。


おお、わかりやすい。しかし1次元の住人にとっては想像を絶する理解の仕方でしょう。では、もし私たちの世界もこのように1次元的な狭い世界だったとしたらどうでしょうか。私たちが想像も出来ないような高度な理解とは一体どんなものか、それがこの作品のテーマです。
以下、少しネタバレ。



作中でよく無限という言葉が使われますが、それは無限に細かく見ることも可能ということで、アキレスが亀に追いつくには無限の時間がかかるという例え話と同じような意味です。無限という言葉のイメージだけが印象的ですが、よくよく考えるとたいしたことないという気がします。