すべての経済はバブルに通じる / 小幡績

金融業ってなにやって儲けてんだろうなあ。なんか存在が意味不明だよなあ。などと就職活動を前にして思っていたのですが、この本はその疑問にぴたりと答えてくれた。今みたいにバブルがはじけた後は金融機関はバカ扱いされ、さらには市場経済そのものが悪者扱いされてしまう。しかしこの本では金融機関は金融のプロであるがゆえに、合理的な判断のもとでバブルを創りだしバブルに乗る、いや乗らざるを得ないと説明しています。


「バブルとはファンダメンタルズ(実体)からかけ離れた熱狂でしかない。だからバブルに乗るなんて愚かだ」という意見があります。たしかにすべての投資家が、投資商品をリスクとリターンからだけしか見なかったらこれは真実です。リスクに見合わないほど株が高くなれば、ふつうは誰も買いません。しかしこれはインカムゲイン(毎期ごとにもらえる配当)だけを狙っている投資家にかぎった話です。多くの投資家は長期保有してちょびちょびとインカムゲインを得るなんてみみっちいことはしません。キャピタルゲイン(値上がり益)を狙う投資家が圧倒的に多いのです。とくに短期的なパフォーマンスを求められるプロのファンドマネージャーほど、キャピタルゲイン重視です。
キャピタルゲインを得るには安く買って高く転売する必要があります。しかし企業の業績なんてそんなにすぐ変わるものでもありません。そこでバブルが必要なのです。業績が変わらなくても、人々の心理が変われば需要が増えて株価は上昇します。こうして転売狙いの投資家にとってバブルはむしろありがたいことなのです。
この過程の中でリスクも変質します。本来のリスクは「将来のキャッシュフローをもらえないリスク」です。倒産したり業績悪化したらインカムゲインも入ってきませんから、これは経済の実体に関するリスクです。しかし転売厨ひしめくマーケットにおいては、誰もそんな長期で保有しません。むしろ「売りたいときに売れない」リスクのほうが問題です。転売しようと思ったら誰も買い手がいなくて涙目ってのが一番困るのです。この新しいリスク「流動性リスク」こそが問題で、これさえなくなればあとは値段をどんどん釣り上げるゲームができます。これは一番最後の買い手がババを引くババ抜きみたいなゲームです。そんなしょうもないギャンブルしてどうすんの? と思われる方もいるでしょうが、これが儲かるんだから仕方がない。金融機関はこうやってバブルの元になる流動性リスクのない商品を作ったり(証券化)、流動性リスクのない商品でバブルに乗ったりしてます。しかも失敗しても政府が救済してくれるから「トレーダーの諸君! 君たちのリスクはすべて納税者がいただいた!」って感じでもう最高ですね。(もちろん金融機関が自由に取引することによるメリットはたくさんあってその辺はファイナンスの教科書を読んでください)。