鼻 / 曽根圭介

曽根圭介の短編集。表題作は普通にいいホラーです。伏線が巧妙でもう一度読み返したくなります。文体が朴訥すぎるかなって気はしますが許容範囲内。一番面白かったのが「暴落」です。人間の価値は数字ではかれないと言いますが、それを定量化しちゃったらどうなるの?という社会派SF。普通こういう作品ではIQみたいな知能指数があって、その点数ごとに人間を振り分けるという管理社会が描かれるんですが、この作品が画期的なのはその管理を自由市場に任せたというところ。例えば出世しそうな人は成長株、資産家の人はバリュー株といった具合に、その人の価値が現在どうなのか・今後上昇しそうかといった材料を基準にみんなが他人に値段をつけるわけです。



そんなことしてどんなメリットがあるんだよと思いますが、例えばモラルの向上に役立ちます。他人によく思われればそれだけ自分の株が上がるので、みんな露骨に人助けしようとします。人を助けたって一銭の得にもなんないよ、という言葉がありますが、このシステムの中では善行が即株価上昇につながり、文字通り得になるのです。逆に犯罪に手を染めたりすると、誰もその人の株を欲しがらなくなり、株価が暴落します。星新一筒井康隆を思わせる良質のホラーなのでこの作品だけでもオススメ。