「夜明け、彼は妄想より来る」「召されし街」
暗黒面に堕ちた村上春樹が書いたホラーといった感じ。
「インキュバス言語」「踊るバビロン」
「インキュバス言語」は筒井康隆「虚人たち」、「踊るバビロン」は筒井康隆「メタモルフォセス群島」の影響が散見されます。*1「インキュバス言語」は言葉により世界を再構築する話。性的な妄想にまみれた言語なので、構築される世界もそれに準じたものになります。「踊るバビロン」は馬鹿らしい不思議ワールドを堪能する話。ラストで爆笑しました。
「バロック あるいはシアワセの国」
貴志祐介「天使の囀り」っぽい。
「或る芸人の記録」
肝心の部分が笑えませんでしたが、設定は面白い。
「逃げゆく物語の話」
この短編集の中で唯一きれいな作品。Bjork「All is Full of Love」みたいなもの悲しさがあります。このラストは正解だった。ホラー尽くしの中ですっごくさわやかな存在だ。
「付記・ロマンス法について」
正統な社会派SFですね。いつのまにか自分が社会の少数派になり、多数派に弾圧される恐怖というのは現実的で笑えません。作中では有害なテキストを取り締まる法律が大した反対もなく可決され、何が有害なのか基準が曖昧なまま施行されてしまいます。実際今も「青少年ネット規制法」成立という状態ですから、他人事ではありません。臭いものに蓋という安易な風潮が、いざ自分がその臭いもののレッテルを貼られたときどんなに恐ろしいか伝わってきます。