マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気 / 冲方丁

ネタバレ有りの総評です。ネタバレ無しの総評は「マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼」をどうぞ。






「マトリックス」みたいなアクションものになるかと思いきや、「カイジ」や「アカギ」みたいなギャンブルものになり、驚きました。しかもこれが結構盛り上がります。心理戦に持ち込んで相手をはめるというよりも、ゲームに影響を与える因子を把握して最適解を模索し、最高の戦略を構築することがメインです。それもSFならではの要素を使っているので、面白い。
テクノロジーの有用性と危険性をめぐるテーマもあり、SFらしいです。作中においては3つの選択肢がありました。

  1. テクノロジーの進歩と社会のリンクを断ち切り、「楽園」の中でひたすら閉じこもる
  2. 社会に快楽を提供し、テクノロジーの有用性を証明し続ける
  3. 社会の緊急手段(マルドゥック・スクランブル)として、テクノロジーの有用性を証明し続ける

2の選択者の後継者が、そのモラルの無さゆえに社会に悪影響を与えます。この悲劇を3の選択者が食い止めるという構図ですが、選択自体はどれも納得のいくものです。結局はテクノロジーの使う側のモラル次第ということなんでしょう。1の選択者はいつかテクノロジーにふさわしいモラルを社会が持つ時が来るので、それまではひたすら待っていようという受動的なスタンスでしたが、そんな日が来るのは遠い未来でしょう。3の選択者がテクノロジーを使い、社会を少しでも良くしていこうと努力するのは、そういう意味で現実的であり合理的です。同時にそれは面倒くさい大変な生き方でもあります。そのリアルな困難さを象徴するのが、激しいバトルシーンです。生きるか死ぬかの戦闘を描くことで、このやり方がいかにしんどいかを表しているんでしょう。一応勝って生き延びるんですが、こういうハッピーエンドは困難に立ち向かっていこうという感じがして好きです。いかにも虚構らしい物語ですが、とてつもなくカッコいい虚構ですよ、これは。