神の目の小さな塵 / ニーヴン&パーネル

人類が銀河系を支配している未来で異星人<モート人>とファーストコンタクトするという、ありがちなSFです。ハインラインが「今まで読んだ中で一番面白いSF」と絶賛したので、読んでみました。たしかに面白いです。面白いんだけど、導入部分が退屈で長かったのがマイナスですね。まあほんの200ページ弱ですが。って長っ!長いよ! さすがに挫折しかけました。なんていうスロースターター。けど序盤さえ耐え抜けばあとは尻上がり的にどんどん面白くなります。キャラが薄くて登場人物の区別がつかないという欠点も、大量のページをめくっているうちに、ある程度判別できるようになるので大丈夫です。
作品のテーマはモート人による人類観察記という感じでしょうか。モート人自体の設定や描写にはそれほど力が入っていない気がします。コミュニケーションを担当するミディエイター、物資の製作・改造を担当するエンジニアと、生まれながらにして役割分担がされているというアイディアも、今ではさして新しくありません。でもそのモート人の目を通して人間を覗いてみると、普段は意識しない側面にスポットライトが当たり、なかなか興味深いです。モート人の思考部分のフォントが通常よりも細くて小さいのもよかったですね。モート人の思考の速さ、それに対する人類の鈍重さを視覚的に実感できて。あと安易なハッピーエンドじゃないのも好みです。以下ネタバレ。



死刑を言い渡された罪人が、一年で王の馬に歌を歌わせてみせると言う昔話*1をたとえに、人類の持つ馬鹿っぽさと楽観主義がモート人にとっては異質であり、それゆえにこれが最も人間らしい資質だと言うのです。どんな可能性の低いことにも挑もうとする夢見るバカって、実にSFらしくて良くないですか? 問題は山積みのまま物語は終わるわけですが、その解決のために夢見る決意をモート人はしたのです。その決断はモート人にとってはクレイジーなものです。そんな決断は過去何度も繰り返され、そのたびに結局は滅亡していったのが彼らなのです。でもその運命を打ち破るためにはやっぱりクレイジーになるしかない。不安でまさに気も狂わんばかりでしょうが、人類にならってモート人はこう言ってみせます。

馬に歌を歌うことを教えられるものがあるとしたら、それは年季を積んだミディエイターに違いない。

楽天的すぎる? いいじゃないっすか。どんな進歩だって最初はクレイジーな戯言でしかなかったのですから。

*1:そんなのできるわけないとみんなから言われますが、罪人はこう答えます。一年あるんだ。その間にどんなことが起こらないとも限らない。王さまが死ぬかもしれないし、馬が死ぬかもしれない。おれが死ぬかもしれない。あるいは、馬が歌うことを覚えるかもしれない。