ゴーレム100 / アルフレッド・ベスター

ついに翻訳されたアルフレッド・ベスターの怪作。22世紀の都市ガフで起きた悪趣味で凄惨な殺人事件、犯人とされるゴーレム100とは一体――? と聞くとなんとなくミステリ系のエンタメかなあと想像しますが、一筋縄ではいきません。ストーリーが蒸発してしまうほど、世界観とそれを表現する文体が猥雑なのです。下品なギャグ、眉を顰めたくなるブラックユーモア、言葉遊びにつぐ言葉遊び、常に躁状態で読者を置き去りにするテンションの高さ、毒々しいまでに飾り立てられた世界、多数のイラストで精神世界を表現するという手法、最終章で登場する極限までくだけ進化した言語、いやそれはもうサスペンスの皮をかぶった実験小説ですから。
精神世界へダイヴしてスラップスティックに事件が展開するというのは、筒井康隆「パプリカ」なんかが近いと思います。まあ英語圏の人が翻訳した筒井康隆を読んだときに感じるであろう読みづらさがありますが。きっと原書で読めば、大いに言葉遊びを楽しめたんでしょうが、翻訳ではちょっとダメでした。それでもかなりがんばった翻訳だと思います。一番面白かったのは色んな○○男が突然登場する場面ですね。あそこまで突き抜けてるとやっぱ笑えます。
とはいえこの低俗さに辟易とする人も多いんじゃないっすかね。でもこのけばけばしいアクの強さを全部取り払って純粋にストーリーだけで勝負してもおそらく凡作だったのではあるまいか。
この一枚の写真を見てください。

この影絵自体はありきたりなのですが、それが汚らしいゴミによってできているのが素晴らしいのです。これがキレイなオブジェだったら、ここまでのインパクトは絶対になかったでしょう。「ゴーレム100」も人類の進化というありきたりなテーマが、99%の猥雑の向こうに見る1%の崇高となって現れるからこそ、「よくわからなかったけどなんか凄かった」という感想を引き出すのです。単なる俗悪な小説に終わらない理由がここにあります。万人には決してオススメできない作品ですが、小説に飽きた人なら試してみるといいかもしれません。てか、これが初ベスターだったんで評判いい「虎よ!虎よ!」や「分解された男」に手を出すのがためらわれる……。