「BLAME! THE ANTHOLOGY」読書会の模様

映画化もされた伝説のネバーエンディング増殖都市マンガ「BLAME!」を原作に、今を時めく作家陣が好き放題書いたアンソロジー。誰得読書会の課題本にしました。読書会では10点満点で点数をつけて参加者一同で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは飛 浩隆「射線」(平均8.6点)。茫漠としたスケールの大きさ、想像を超える美しい風景の描写といった点が原作とも親和的であり、高評価されました。10点満点つけた人も3人もいました。実際すごい。
以下は、各短編の僕の採点(10点満点)、そして議論の過程で出てきた主な意見の紹介となります。 

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京極夏彦をやりたくて清涼院流水となったバカミス――「うみねこのなく頃に」

孤島の密室で連続殺人事件が起きる。それも人間には絶対に不可能に思える方法で。人間にできないなら、魔女の仕業。魔女は”い”る。
いやいや、んなわけねーだろ、こんなの全部人間のトリックで説明してやるぜー、魔女の不在を証明してやる!
……という、魔女はいるよ派(というか私こそが魔女だよ派)と、魔女なんていないよ派の、逆魔女裁判が本作の前半なんですが、これだけ聞くとけっこう面白そうなんですよね。魔女だと認めてもらいたい容疑者。これは斬新。
ところが、エピソード5から、魔女なんていないよ派だった主人公が急に悟ったような顔して、魔女はいるよ派に転向して、なんでそんなことになったかも含めて謎解きしないといけなくなり、正直カオスです。迷走しているとしかいいようがない。一応、エピソード8で、すべてが明らかにされるのですが、そこに至る過程が色々おかしい。

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イエスタデイをうたって

かなり好きな作品。マンガの絵というよりも、美大生が書いたという方がしっくりくるような、素晴らしい絵。ストーリーは恋愛を中心にしてはいますが、けっこうぐだぐだなんで、どうでもいいです。4巻くらいまでは最高なんですが、「めぞん一刻」の管理人さんを数倍めんどくさくしたヒロインが、すべてをめんどくさくしていきます。ただ脇役も含めキャラと、何気ない日常の空気感は素晴らしく、居心地がよい。夢見がちな大学生気分が抜けなくて、とりあえず生活のためにコンビニでバイトして、でもアート的なものから完全に抜けられるわけでもない、そんな主人公の成長物語として読むこともできるかもしれません。

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グロテスクなんだけど読み始めたら止まらない系のマンガ5選

グロいの苦手なんですけども、たまに面白いのもあるから困る。

メイドインアビス

ぶっちゃけ、これを紹介したくてこの記事を書きました。「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」で紹介されていたので読んでみたのですが、噂にたがわずスゴイ本。底の見えない大穴を探検するというシンプルな構成ながら、「風の谷のナウシカ」的な異世界生物にわくわくするし、時には「ダンジョン飯」的に食糧現地調達サバイバルものになるし、なんか絵柄もほんわかしていいっすなあ、という代物。でも、のほほんとした空気からいきなり、生きるか死ぬかのシビアな展開がまってるんですね。で、当然、グロいと。この落差はなかなかないですね。まだ完結していないのですが、今一番続きが気になるシリーズといっても差し支えありません。

ベルセルク

圧倒的な完成度を誇るファンタジー。おそらくジャンヌ・ダルクとかがいた時代の中世フランスを舞台にしています。物語初期の傭兵時代編は最高でしたね。そこから人智を超えた怪物に遭遇してしまい、それを人力でなんとか倒していくあたりも面白い。徐々にファンタジー要素が強くなって、戦闘がまた別のゲームになっていくわけですが、ここもけっこう好きです。ただ最近は展開が遅すぎて正直もうちょっとなんとかなんないのかな、と思ったりしますね。さて、グロいところは、あるといえばあるんですけども、スクリーントーンをあまり使わない、パサパサとした質感のタッチなので、そこまできつくないかなあ、という感じです。まあ、例外的な場面もありますが。

寄生獣

もはや定番なのかもしれないんですけども、バイオホラーの傑作といいますか、人間中心主義を木っ端微塵にぶっ飛ばす超エキサイティン!なセリフに満ちた本作は外せないような気がします。食物連鎖の中で捕食される側になってしまうという設定ですので、グロくないはずはないんですが、必然性のあるグロさですね。まあ、あと最初は気持ち悪かった触手のミギーも、より気持ち悪いのがいっぱい出てくるので、相対的にマシにみえてきて最終的にはミギーかわいいよミギーという心境に至るから不思議なものですね。


アイアムアヒーロー

ゾンビもの。やっぱり最初の5巻ぐらいまでが緊張感ありましたが、謎解き要素がまだあるのでなんだかんだ追いかけています。この作者の「ルサンチマン」もけっこう面白くてオススメです。4巻で完結するので手軽。





フランケン・ふらん

正直この作品を紹介するのは犯罪的というか、心の傷跡をばらまくような行為なので、とても申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、名作です、名作なのです。バイオテクノロジーに精通したブラックジャックが、毎回毎回とんでもないソリューションで患者の難題を解決するという話。なのですが、発想がマジキチなんですよね。生命倫理が体育館の裏でゲロ吐いているような、そんなホラーに仕上がってます。男二人から同時に告白された女の子が「どっちか選べなーい」みたいにぶりっこしてたら、謎の技術で身体丸ごと分裂して女の子が二人になり、内面の葛藤が物理的に存在する二つの身体同士の衝突に置き換わってしまう話とか、そんなのです。あと、1巻が一番グロいです。事故で損傷した身体を修復する間、一時的に人間の頭を〇〇に移植して、とか、もうね、ほんとやめてほしい。これは本気でやばいやつです。

誰が得するんだよこの本ランキング・2016

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です(出版年ベースになっていないのでご留意ください)。かつては実用書・フィクションからそれぞれトップ10を選んでいたものですが、今年は忙しくてその気力がないので適当に紹介して、お茶を濁す感じです。

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「アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選)」読書会の模様

2015年の日本SFのベスト短編集。先日の誰得読書会の課題本にしました。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは伴名練「なめらかな世界と、その敵」(平均8.7点)。複数の世界をなめらかに渡り歩くことが日常化した世界を映像的に面白く表現しており、絶賛されていました。
以下は、各短編の僕の採点(10点満点)、そして議論の過程で出てきた主な意見の紹介となります。 

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「君の名は。」が好きすぎる人向けの4作品

よすぎた。
よすぎて魂が完全に浄化された。
具体的にどこがどうよかったか、これ見よがしに分析したいのだけれども、それすらかなわないほど没頭してしまった。仕方がないので、「君の名は。」が好きすぎる人向けの作品を4つ紹介してお茶を濁したい。ネタバレは容赦なくしている。


グレッグ・イーガン「貸金庫」(「祈りの海」収録)

朝起きたら見知らぬ部屋にいて、見知らぬ他人に成り変わっているという設定だと、この短編が面白い。「君の名は。」では幸いにして、東京のイケメン男子にしてくださぁい! という願いの叶った三葉であったが、これが中年のおっさんの身体だったとしたら途端にホラーだったであろう。この短編の主人公の状況はさらにひどく、朝起きて自分が誰の身体に乗り移るかは完全にランダムになっており、その度に必死に周囲の状況を把握し、うまく話を合わせて乗り切る、ということを繰り返している。固有の身体を持たない、この精神は、いったい何なのか。「君の名は。」どころの騒ぎではなく、「俺の名は。」という感じである。
わかる。爽やかな恋愛物を紹介してほしいのに、アイデンティティの話とかぶっちゃけどうでもええねん、とあなたが思っていることは痛いほどわかる。というわけで、「バタフライエフェクト」である。


バタフライ・エフェクト

簡単に言うと、例の酒をかっくらって歴史を改変しようとしたら、初期条件のわずかな違いが最終的に大きな影響を及ぼすというカオス理論に導かれて、岐阜の代わりに東京に隕石が落ちてきてしまい、完全に裏目に出てしまう、という映画。もちろん、そんな悲劇を回避するために何度も何度も例の酒をかっくらうわけですが、その都度、想像もできないような因果に翻弄されるわけですな。マジかよ、これ解あんのかよ、というハードモードなので、その分、収束を迎えたときの爽やかさは尋常ではありません。「君の名は。」のラスト好きにはたまらないはず。


ミッション:8ミニッツ

惨劇を防ぐために、惨劇を起こることを知らない無数の人々を動かす、という設定が面白いなら、この映画ですね。惨劇まで8分間しかないので、余計なことしている暇が一切なく、最短距離で、最善手を打ち続けないといけないと死ぬという緊張感があります。また、途中、ものすごく美しいシーンがあります。




森絵都「カラフル」

他人の身体だったら、どうせ自分の人生じゃないし、好き放題やってみるか、という解放感に関しては、これ。主人公は一時的に、いじめられっ子の中学生男子として生きるはめに陥ってしまい、人生縛りプレイでもしてんのこれ? という感じに戸惑いを覚えつつも、それでもできる範囲で好き勝手したりする話です。周囲の「こいつ、なんか人が変わったようになってんな」という反応が楽しかったりする点は共通してますね。こう書くとあんまり面白くなさそうですが、実はめちゃくちゃ面白いです。