共生虫 / 村上龍

村上龍がよく描写する感覚として、薄い透明なビニールみたいなものが自己と周囲のあいだにあって、そのせいで現実がひりひりとした感触を失い、ぬるま湯の底でゆっくりと死んでいくような感覚、というものがあります。
この状態をいかに破壊するかが、村上龍の小説のテーマなのですが、本作ではあまり成功していません。というのも、主人公が引きこもりで、しかもネットの情報を頼りに遺棄された兵器を発掘しにいくという、後ろ向きな内容だからです。
田口ランディとの対談(「存在の耐えがたきサルサ」収録)では、それでも外へと行動していったのだから進歩だとか話していましたが、どうなんですかね。やはり「最後の家族」のように社会との接続によって引きこもりを止める展開のほうがいいですし、もっと歪な形での接続を出してきた田口ランディ「コンセント」のほうがまだ救いがある。こんなことになるのなら、暗い部屋の中でひっそりと死んだほうがいいのではないか、とさえ思うような、どうしようもなさがあるのです。