人間小唄 / 町田康

ひどい。とある作家がわけのわからぬ連中に監禁される、そして(1)短歌をつくる、(2)ラーメンと餃子の人気店をつくる、(3)暗殺をする、という無理難題を押し付けられ、それを無理やり遂行していくという話である。ひどい。他の部分もまったく意味不明なのだがそれでも読んでいってしまうのは、この支離滅裂さが人生の一側面を言い当てているようなな気がしたからだ。僕たちの目の前にはいつも首尾一貫した秩序が待っているわけではなく、奔流のような意味不明さが押し寄せているし、それは善い悪いを別にして、そういうものだからだ。
あと罵倒語が新しい。人をなじるときに、箱、とか言ってる。箱ってなんだ、箱て。箱が何らかの隠喩であったりすることは文脈からは読みとれず、ただ箱が罵倒語として機能しているようである。こういった言語的な理不尽さも、物語の理不尽さをサポートしているようで面白い。
筋の通った比較的わかりやすい傑作「告白」や、崩壊寸前の首尾一貫性を最後の最後で持ち直した「パンク侍、斬られて候」に比べ、もはや筋と呼べるものはないほどに砕け散ってしまった本作ではあるが、不思議とそんなに嫌いではない。