蹴りたい背中 / 綿矢りさ

綿矢りさの青春小説。ちょっと周囲に溶け込めない女の子とアイドルオタの交流を描く話。「私はあんたらとは違う」という自尊心と孤立感がないまぜになった、複雑な心の機微が上手く描写されています。共感できる人なら居心地いい小説だと思います。芥川賞受賞作って意味不明でつまらない小説がけっこう多いんですが、この本はわりとまともな部類です。感動はしませんでしたが感心しました。ただ村田沙耶香「マウス」の飾らないストレートな文章と比べると、何を言っているんだかよくわからない小説になっています。ナルシスティックな自意識が文学的な表現によって韜晦されているだけで、中身はたいして深くありません。いや、深読みしようと思えばどこまでも深く潜れそうなポテンシャルはあるんですが、それをやっちゃうと「アンパンマンほど哲学的なアニメはない」と同レベルの解釈になりそうで怖くてできません。