安徳天皇漂海記 / 宇月原晴明

宇月原晴明歴史小説。かなりファンタジーも入っているので伝奇小説ってやつかもしれません。前半は、鎌倉時代の将軍・源実朝をめぐる古文調の物語で、後半はモンゴル帝国・元に仕えたマルコ・ポーロを中心とした口語調の物語です。古文や日本史・世界史に興味を持ちたい受験生にうってつけの本でした。



まず前半部。数多くの和歌を引用し、その解説までやってくれるので古典の勉強になります。受験生時代はこんな教養いらねーと不満たらたらでしたが、今になって読むとなかなか楽しい。教養的な知識はやっぱり余裕のあるときじゃないと身につきませんね。*1特に気に入ったのはこの一首。

とにかくにあればありける世にしあればなしとてもなき世をも経るかも


とにもかくにも、どうにか生きていけば生きていられる世の中であるから、たとえ何もないとしても、何もないままで世を渡っていくことよ。

よくないですか? まあ、いきなりこれがバーンと出てきても、きょとんとしてしまうでしょうが、重厚な物語の中で読むと感慨深い。あと、ところどころ史実や神話がはさまれていて、いいアクセントになっています。同じファンタジーにしても、こういう現実と結びつけた演出は好みです。
そして後半部。前半のくどくどしい古文とはうってかわり現代風の文章になります。また外の世界から島国日本を客観的に眺めることで、世界の広さを感じ取れました。オチもきれいにまとまったんで良し。よくできた神話を読んでいるみたいでした。

*1:個人的には、教養の授業は全部選択制にしたほうがいいと考えています。学生のモチベーション的にも、経済合理的にも。そもそも、教養なんてエリートぶりたい人だけが楽しむもんです。教育として、もっと優先すべき科目があります。