あるいは酒でいっぱいの海 / 筒井康隆

初期ショートショート集。「底流」は今でも読む価値のある佳作です。テレパシー能力を持った若いエリートがある職場に赴任してくる話。前任者のおっさんは苦労して得たポストを追われることになるので、主人公のエリートにたいして敵意を抱きます。そこで自分のありったけの悪意をテレパシーに乗せて叩き込むことで、主人公のスムーズな仕事の引継ぎを妨害しようとします。言ってしまえばこれだけの話なんですが、このおっさんの罵詈雑言の数々が素晴らしい。罵り言葉のボキャブラリーはハートマン軍曹に匹敵しますね。生々しい人間の憎悪がひしひしと伝わってきて心に刺さります。これ主人公に共感するかおっさんに共感するかで、その人が世間にもまれているかどうかがチェックできますね。