どこかの事件 / 星新一

星新一ショートショート集。この中では「味覚」が面白かったです。ある日特殊な能力に目覚める男の話なんですが、その能力が変わっています。ありとあらゆるものが旨そうに見え、実際に食べてみると途轍もなく旨く感じるという能力なんです。
以下ネタバレ。



男は海の幸も山の幸も一般的には幸ですらないようなものまで、なんでも喰らい尽くします。ついには身体ごと海に飛び込み、ひたすら海産物を食べながら漂流するようになります。海洋での生活のせいか、今まで食べてきたもの副作用か、男の身体は奇妙に変化します。最後にこの男は漁師に捕らえられるんですが、そこで漁師一同は「この変な生き物をすりつぶして薬にしたら、どんな病気も治るような良薬になる気がするよ」と思います。
そう、男の味覚は全てこのためにあったのです。すなわち良薬のための材料を探し、それを体内で調合するための人生だったわけです。これだけ聞くとなんとなく悲劇っぽいんですが、男のほうも様々な味を享楽的に楽しんでいたわけですし、いい人生だったと言えなくもないです。
こういうホラ話は好きです。