ホンキイ・トンク / 筒井康隆

筒井康隆の初期短編集。「ワイド仇討」がよかったですね。あんまり乗り気じゃないのに仇討ちせざるを得なくなった主人公のもとに、次々と似たような境遇の人たちが集まってきて一大イベントになっていく過程が面白い。この仇討ちショーを喜ぶ構図って、犯罪者に死刑を要求する遺族をやたらとクローズアップするマスコミと一緒ですよね。
いや、その遺族がこの小説と同じように半ば強要されて「被告に死刑を!」と叫んでいるわけではないと思います。実際に自分の家族が殺されたら、私だって「殺人者はとっとと死ねよ」とぶち切れます。ただ、その仇討ちがマスコミによって一種のドラマにされてしまう構図というのはたしかにあるのです。そういう正義が悪をやっつける物語をみんなが求めているんです。この構図を皮肉った風刺は今でも色褪せていませんよ。