戦闘妖精・雪風(改) / 神林長平

戦闘機のパイロットが謎の異星人の侵攻と戦うというストーリー。しかし血沸き肉踊る冒険譚ではなく、戦争を通して人間と機械のあり方に思いをめぐらすという思弁的な内容でした。登場人物のほとんどが軍人のせいか会話や描写が実にそっけなかったです。機械の描写もまさに機械的で「capeta」のような熱いパイロットものを想像していただけに面食らいました。まあでもそんなところはどうでもよく、人間とはなにか・機械とはなにかというテーマのほうがメインです。



たとえば車を組み立てるという仕事について考えます。仕事が完遂されればそれでいいので、作業を人間がやっても機械がやってもどっちでもかまいません。機械は高いから人間にやってもらおうとか、機械のほうが正確だから人間は要らないとか、いろいろ考えられるでしょう。ではもし機械がとてつもない進化を遂げてありとあらゆる点で人間より優れていたらどうでしょう。人間は不要です。
車の組み立て程度なら話は簡単ですが、この人間の非効率性というのは社会のありとあらゆる面にも適用できます。仕事のたびに、面倒だ、働くのイヤだ、今日の晩御飯はカレーにしよう、などとうだうだ考える人間よりも、何も考えない機械のほうが優れているのは当たり前です。とくに些細なミスが即死につながる戦場においては人間の非効率性が浮き彫りにさります。
何かに価値を与えることができるのは人間だけだから、人間は素晴らしいんだというヒューマニズムも、戦場の冷酷さの前では塵のようなものです。その価値を感じられるのも生きていればこそですから、サバイバルが最優先にされる戦場においては甘っちょろいヒューマニズムはむしろ邪魔ですらあります。
こうした人間であるがゆえの限界と疎外感を感じさせる小説でした。