エネルギーの専門家による国際政治批判。非常に読み応えのある本で、目からうろこのネタがざっくざっくとつまっています。例えばブッシュ政権のイラク侵攻は石油利権狙いだとまことしやかにささやかれていますが、これは間違いらしいです。そもそもアメリカの1次エネルギーに占める中東原油の割合はたった2%で、あってもなくてもいいレベルです。むしろアメリカの真の狙いは政情不安定な中東に政治介入することで、国際石油市場の安定化することにあります。
国際石油市場で石油価格が安定しなければ、自動車社会で石油依存度の高い国民生活が立ち行かなくなります。しかもアメリカではガソリンにほとんど税金がかかっていないので石油価格の変動がダイレクトに生活に影響します。*1
他にも一応、中東のアラブ諸国と対立しているイスラエルを支援する動き、古臭い「地政学」的発想によって石油を「戦略物資」として確保しようとする動きなどが絡んできます。
本書では基本的に石油を流動性の高い国際商品であるとしています。つまり市場メカニズムによって需要と供給が調整されるものなので、経済性を度外視してまで必死に確保しないといけないような「戦略的」な物資ではないのです。たとえば、石油ショックの時は、オランダとアメリカに対し石油の輸出が禁止されましたが、実際にこれらの国では石油の輸入は減りませんでした。これらの国の需要を満たすため増産する国がありましたし、中東から輸入した石油をアメリカに輸出することもできたからです。
逆に旧来の資源囲い込み戦略によって、この市場メカニズムを損なうことがあれば、国際市場が硬直化して必要な国に必要な分だけの石油が行き渡らなかったり、無駄な緊張を招いてしまいます。ゼロサムゲームとしてエネルギー戦略を考えるのではなく、あくまでも安定した国際市場によって産油国も消費国も得をするようなプラスサムゲームとして考えなくてはいけません。