自分探しが止まらない / 速水健朗

「今の自分がホントの自分ではない」「どこかにホントの自分がいる」「やりたいことを見つける」「なりたい自分になる」「もっと違う〈何か〉、もっとすばららしい〈何か〉があるかもしれない」 これらの言葉に共感できたあなた。自分探しの真っ最中です。本書は10〜30代の若い世代が共通の文脈として持っている「本当の自分を探さなくてはいけない」という価値観について広く浅く紹介する本です。しかしこの自分探しを単なる病とは断定していません。一種の信仰だといっています。しかも消費社会用にカスタマイズされた信仰らしいです。

現代における信仰、もしくは宗教とは、必ずしも教団組織が存在し、それに所属するという形を取るとは限らない。むしろ、教団組織も経典も存在せず、商品として流通して消費されていく一般消費財としての信仰の方が主流になっている。

自己啓発本がいつまでたっても売れ続けるのは、読んでも「成功」なんてしないからです。これらの商品は、啓蒙を目的としてはいません。読んだときの自分が賢くなったような興奮や「そのままのあなたでいい」と自己を承認される安心感が売りなのです。要はホントの自分を啓発してくれる(そう錯覚させ興奮させる)ドラッグです。もちろん実践的な知識を提供してくれる成功哲学もあるでしょうが、愚にもつかないスピリチュアルな本がバカ売れしているのを見ると、やっぱりこれって信仰だよなあと思います。
さて、このような信仰は傍から見るときわめて馬鹿らしく、ついていけない人に病気だと言われてもおかしくありません。しかしやってる本人はそれでけっこう幸せだったりするから話はややこしい。このややこしさを説明するために寓話を作ってみました。

このエントリを書く発端となったのは以下の論説です。

自分を決めた人というのは、一定の他者からは必ず滑稽に見える。どの角度から見ても理想的な人などいないのだ。それを見て嗤うのはあまりに容易い。しかし彼らは嗤われるだけましなのだ。自分を決めていないものは存在しないに等しい「幽霊」であり、嗤われる対象とすらなりえないのだから。
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自分探しを続ける人を幽霊だと揶揄するスタンスは共感できるし、その罵倒はたしかに気持ちいいんだけど、そんな一方的に切り捨てられるもんでもないと思うんですよ。