家族八景 / 筒井康隆

筒井康隆の人気シリーズ「七瀬三部作」の1作目です。何度も映像化されたのに、いまだにドラマ化しちゃうあたり、「七瀬ふたたび」の方が人気なんでしょうが、小説として今読むならこっちのほうが面白いと思います。テレパシーを持つ超能力者という設定はありふれたものですが、登場人物の心理描写がずば抜けていて、その迫真のディティールがリアリティを演出しています。まあ、人の心なんてものは大概汚いものなんでしょうが、その汚さをこうも見せ付けられると居心地悪くすらありますね。


余談ですが、情操教育にもいいんじゃないかと思います。この本を読んだあとは、現実にテレパシーがいないことは百も承知でもなんとなく心をキレイにしたくなりました。「清く正しく美しい心を持ちなさい」なんて毒にも薬にもならない訓示よりもよっぽど有効ですよ。
あと、これを読んだのは中学生の時だったので「ふっ、お前が俺の心を読んでいることは知っているんだぜ」と心の中でつぶやき、仮想のテレパシー能力者をけん制するという遊びにハマりました。中二病の初期症状ですが、みなさんもこういう経験はありませんか? もし自分だけの悪癖だったら恥ずかしすぎるんですが……。