上司は思いつきでものを言う / 橋本治

上司ってなんであんなてきとーなこと言っちゃうんだろうなあ。バカなのかなあ。しかしバカにもバカなりの行動原理があるはずなんじゃないかな。そのよくわからん行動原理にそってみるとなかなか合理的に動いてると思うよ、上司は。
で、上司ってなによ? って話だけど、まずもって上司は「現場の人間ではない」んだよね。現場にいないから現場のことはよくわからない。でも立場上、現場を指揮監督する、なんてことになってる。だから、とりあえずなんかアドバイスしたりして面目を保ちたい。けど、現場を離れて長いから、古い情報に基づいた的外れなアドバイスになっちゃったりして、部下に「なんだこのオヤジ。てきとーなこと言いやがって」とか思われたりする。だけど上司は、なんたって上司なのだ。部下より偉いのだ。いや、偉くあってしかるべきなのだ。だから、部下が「〜〜という問題があって、これを解決するには〜〜すべきだ」といった建設的な提言をしてきたときに、「うん。まったくその通りだ! 上に伝えておこう」なんて気さくに返事してしまってはいけないのである。なんとなれば、その現状の問題を作り、放置したのは昔現場にいた人間、つまり上司その人なのだ。たとえ部下がそんなことどうでもいいじゃんかと思っていても、上司は気にしてしまうのだ。それをあっさりと認めてしまっては、自分の優位が傷つけられてしまったような気になる。だから「いや、しかし」などと反射的に口にしてしまい、続けて古い情報に基づいたてきとーなアドバイスをしてしまう。
これは一見、非合理的だけど、上司の立場からすれば合理的だ。平社員の上にいる上司は、そのまた上にいる上司の部下でもある。上司はこの「上司のピラミッド」の中にいる。「上司のピラミッド」の論理は、現場という大地の上に建設された人工物だ。現場から遠くはなれたその地では、現場の論理は届かない。「現場とかよくわかんないし、とりあえずこっちはこっちでやっとくからよろしく」ということになってしまい、現場のニーズを満たす組織から、組織のための組織に変わってしまう。
こんな状況に現場目線で「アホか」とツッコミを入れるのは簡単だけど、単なる現場の一兵士がツッコミを入れるだけじゃ状況は変わらない。とはいえ、アホをアホのまま放置するのもいただけない。だからアホはアホなのだと割り切った上で、そのアホにいかにして自分の建設的な提案にそって動いてもらえるかで勝負すべきなのだ。それかさっさと「上司のピラミッド」を登ってしまってアホな組織を叩き壊すぐらいしかない。