嗤う伊右衛門 / 京極夏彦

四谷怪談」のリメイク。時代小説ときくと古臭いイメージがありますが、それは本来おかしいことです。どんなに古い時代であれ、その当時を生きる人々にあってはその時代こそが今であり現代なのです。21世紀の今を通して当時を見てしまうと、どうしても古臭さというフィルターがかかってしまいますが、そのフィルターを排除し、純粋に当時の感覚を再現した小説こそ、真の時代小説といえるでしょう。そういう意味ではこの小説は成功例です。当時のみずみずしさというか生き生きしている感じがよく伝わってきます。ストーリーは怪談というよりも純愛とか切ない系って感じですが、そこそこ良いです。でもやっぱりストーリーよりも時代の描写の方を評価したいですね。

どすこい。 / 京極夏彦

なにやってんすか京極先生。相撲取りの討ち入りを描く「四十七人の力士」、肥満ミトコンドリアが暴れる「パラサイト・デブ」などなど数々の名作を下敷きに、デブネタオンリーで攻めた短編集。ひどい作品です。京極夏彦のギャグは日常のちょっとしたシーンにさりげなく挿入されたり、「今昔続百鬼――雲 多々良先生行状記」みたいなキャラの暴走ならかなり面白いんですが、直球のギャグはどうしようもなく終わっています。東野圭吾のギャグ小説と同じくらいに寒いので読まないほうが賢明です。同じパロディ小説でも筒井康隆なら笑えるんですが、単なる好みの問題でしょうか。これが始めて読んだ京極夏彦の小説だったので、あの素晴らしい京極堂シリーズですら敬遠していました。なんという悲劇