ユーロ破綻 / 竹森俊平

面白かったので自分用のメモ。
ユーロ圏内では、産業の競争力の強いドイツ商品が、競争力の低い南欧の商品を駆逐するプロセスにある。もし仮に共通通貨ユーロを使用していなかったら、競争力の低い南欧は、経常収支の赤字→南欧の通貨に対する決済資金需要の減少→通貨安→価格競争力回復→経常収支の赤字が減少、という形で、なんとかなる。しかし、通貨が共通なので、自国通貨安というプロセスをとれない。このため、際限なく、経常収支の赤字が続く。
これをリーマンショック前までは、ドイツから南欧への資本輸出でファイナンスしていた。高い労働コスト増加率(→インフレ率)を持つ南欧は、資産の運用先として魅力的だった。しかし、結局ドイツとの競争で勝てない(労働コストの上昇でますます勝てない)点や、ギリシャのように産業が弱いだけでなく財政危機に陥っている国もあることなどから、南欧への資本輸出が引き上げられることになる。この過程は、南欧の政府・銀行は、自国以外からの資金調達が難しくなる(金利負担が上昇する)局面でもあるので、財政的に・銀行経営的に、非常に苦しくなっている。
因みに、国際間のモノ・資金のやりとりは、中央銀行間の「ターゲット勘定」で行われるため、この勘定を見ることでも、南欧からの資本輸出の引き上げ(資本逃避)はわかる。この勘定では、資産(輸出などで購入代金を受け取る場合)・負債(輸入などで購入代金を支払う場合)があるが、南欧中央銀行は、負債超(純負債がある状態、すなわちドイツから商品をたくさん買っているが、それをカバーするほど輸出がないor資本輸入ができていない)となっている。一方で、ドイツの中央銀行は資産超(純資産がある状態、すなわち、ドイツ商品を南欧に輸出し、その購入代金を受け取れる状態で、南欧商品の輸入の購入代金をカバーできている状態)だ。
この資産・負債が清算された場合、南欧→ドイツにお金(ユーロ)が移動する。そしてその額は、南欧のマネタリーベースをすべて使い尽くすほどの巨大な規模となっている。つまり、普通に考えたら、南欧の経済が崩壊するレベルでお金がドイツに移転してしまう状態だ。
しかし、南欧のマネタリーベースは増加している。これは、通貨発行権限をもった南欧中央銀行のユーロ紙幣の印刷しているためだ。実はこれもかなり厄介な状況で、通貨の発行といっても、実際やることは南欧の民間銀行の資産を担保に、当座預金(お金、流動性)を供給するわけなので、民間銀行に優良な資産がないといけない。しかし、それも出尽くしてしまっているので、格付けがつかないような、例えば民間銀行が民間企業に持つ個別の債権を担保に流動性を供給しているような状況だ。なお、このような証書貸付債権を担保にした流動性供給は日本でも制度上存在するが、ほとんど利用されていない。