死霊 / 埴谷雄高

マジでなにが面白いんだ、これ……。事件らしい事件は何も起こらず、ひたすら思弁的な登場人物がわけのわからない妄想をしゃべり続けるだけ、という話で、しかもその内容があまり面白くない。例えば、私は私である、という自明のことを受け入れることができずに、私が私であることが不快だ、などと考えている青年とか、人類はいまや死の時代にいて、最良の生ではなく最良の死を説く者こそが偉いのだとかまくしたてる青年とか、人類の歴史の行きつく先を俺はもう知っていて、かつその地点から現在の世界も俯瞰できるのだとかのたまう青年とか、もう登場人物が全員ろくでもないごくつぶしばかり。
しかも、そういった奇天烈な存在と読者のいる日常をつなぐべき人物も、いるにはいるのですが、この津田夫人なる人物は、日常的な、あまりに日常的な存在で、要するにその辺によくいる世話焼きおばちゃんでしかなく、前述の奇想に面食らうばかりで、それを京極堂シリーズのようにわかりやすく解説してくれる存在ではないのですね。無能すぎる……。なにやら奇書として持て囃されているらしいですが、まだ夢野久作ドグラ・マグラ」のほうがリーダビリティがありますし、レトロな雰囲気を味わいたいのなら、京極堂シリーズを順番に読んでいけばそれでいいでしょう。