誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 / ドナルド・A・ノーマン

心理学の実験ではたいていある種のゲームの中で人間がどのようにふるまうかが着目される。本書ではその逆で、意識的になにか物事を考えるような場合ではなく、日常生活の中で人間がどのように無意識的にふるまってしまうかに着目している。たとえば、どっちから開けていいのかわからないドアがなぜ存在してしまうのかとか、発電所や飛行機の事故でよく言われるヒューマンエラーとはなんなのかとか、そういった話だ。
あまりにも卑近過ぎて興味が出ないかもしれないが、しかしそういった頭でっかちな読者こそ読んでみるといいかもしれない。とくに面白かったのは、人は一般的になにか問題が起こると環境のせいにしたり、問題の種になった人の性格のせいにしたりする傾向があるが、こと道具の使い方になると自分を責める傾向にある、という話だ。たとえば、複雑なリモコンの使い方が分からなかった場合、それをメーカーのせいにして怒鳴りつけると言う人はあまりいない。むしろ、これは自分には無理だな、と静かにあきらめる人のほうが多いのだろう。そういう人がいるせいで、使いにくいデザインがいつまでも市場から淘汰されずに残ってしまうわけであるが。