異星人の郷 / マイクル・フリン

現代の統計歴史学者が中世ドイツの滅びた村を調べているうちに、異星人とのファーストコンタクトの史実を発見するという話。紙幅の大部分が、中世の神父と異星人クレンク人との交流で占められており、カルチャーショックがすごいです。
なにせこの神父ときたら、異星人をキリスト教に改宗させ、洗礼しますからね。気合入ってます。最初は、異星人の異形に驚き、「こいつら悪魔なんじゃないか」とビビっていますが、異星人が遭難して負傷していることに気づくと、汝の隣人を愛するわけです。聖なるかな神父。理知的じゃないか。まあ、中世の神学者は同時に自然哲学者でもありますから、このような対応もできるのは当たり前なのかも知れません。面白いのは、異星人と神父の宗教問答。異星人の仲間が死んだシーンではこうです。

野営地に戻ると、クレンク人のイルゼが近づいてきた。「神父、おまえたちの“天から来た領主”に忠誠を誓った者はふたたび生きられるというのは本当か?」
「はい。その魂は聖人たちとともに永遠に生き、最後の日に肉体とともに復活します」
「その“天から来た領主”はエネルギアの存在で、わたしのゲルトのエネルギアを見つけ、肉体に戻すことができるのか?」*1


どうです? もうなんか神父の発想の方がよっぽど異星人って感じじゃないですか。とくに無宗教の日本人からすると、異星人のほうに親近感がわきます。しかし無神論者の異星人も船が難破して故郷に帰れないという状況にまいっているので、神父の言葉はやはり希望を与えるわけですね。どうあがいても異郷の地で死ぬしかないという状況では、祈るしかないわけです。キリスト教というのは、現世での救済を放棄せざるをえないほど不条理な現実にぶちあたった者たちの思想なのだなあと再認識しました。
決して読みやすい本ではないですし、中世の日常の描写は何が何だかわからなくてぐったりしますが、そこそこ感動しました。歴史小説としての面白さなら佐藤賢一「ジャガーになった男」、遭難した異星人とのコンタクトなら「第9地区」の方を僕は評価しますが、キリスト教・中世の慣習・宇宙物理学に詳しくなれる教養小説を求めているなら、本作は外せません。

*1:下巻78p