オカルトを駆逐しよう


量子力学「どんな確率の低いことでも起こりうる」ということを証明してしまいました。また哲学的に考えても、ありとあらゆる一般法則は過去の観測結果から帰納的に導き出した仮説にすぎないから、どんな突飛な例外も存在しうる、と言えます。昨日までそうだったことが明日もまた100%そうなるという理由はどこにもないのです。
これに目をつけたのがSFとオカルトです。常識外れの異世界を楽しむという点で、両者は共通しています。しかし、SFがしょせんフィクションであることを自認しているのにたいし、オカルトはそうではありません。世間のヤツらは気づいていないが、自分だけは真相に気づいていると確信しています。彼らの宗教的とすらいえる情熱には余人をよせつけない凄み(あるいはイタさ)があり、その行動力をもっと他のことに向ければいいのに、と心配したくなるほどです。
しかし、今日はこのオカルトを否定したいと思います。まだ小学生の時に見たテレビのMMRが本当に死ぬほど怖くて、グレイが次々と上陸してくるシーンは今でもトラウマです。全国のアホの子を恐怖のどん底に叩き落したMMR。純真な子どもに1999年の死を覚悟させたMMR。今でこそ笑ってネタにできるものの、その罪は重いと言わざるを得ない。本論はそんなオカルトへのささやかな復讐です。*1
さて、オカルトの理論的バックボーンは「どんな確率の低いことでも起こりうる」から、UFOも宇宙人もネッシーも波動も異次元も霊界もなんだってアリじゃね? というものです。しかし、科学はその一歩先をいっています。「どんな確率の低いことも起こりうる」ことを認めるだけでなく、その蓋然性の低い(自然には起きそうにない)事象だってちゃんとカバーして理論を作っています。その確率がどれほど低いかを定量的に考えているのです。
物理学者リチャード・ファインマンが考案した「経路積分」という手法を紹介します。

あなたが部屋を横切りたいとしよう。ニュートンの考えによれば、あなたはA地点とB地点まで、単純に古典経路という最短の経路をとる。だがファインマンによると、まずあなたはAとBを結ぶありとあらゆる経路を考えなければならない。つまり、火星や木星や近くの恒星まで行く経路のほか、時間をさかのぼってビッグバンまで戻る経路さえ考える必要があるのだ。どんなに奇想天外な経路でも、考慮に入れなければならない。ここでファインマンは、それぞれの経路に数を割り当てることにし、その数を算出する厳密なルールを与えた。すると不思議なことに、あらゆる可能な経路についてこの数を足し合わせる(積分する)と標準的な量子力学で与えられる、A地点からB地点まで歩くと言う事象全体の確率が明らかになった。これはなんとも驚くべき事実だった。
ファインマンは、ニュートンの運動法則に反する奇想天外な経路について、それぞれに割り当てた数を足し合わせると、たいてい打ち消しあって総和はわずかになることに気づいた。そしてこれが量子ゆらぎのもとだった――つまり、量子ゆらぎは総和が非常に小さい経路を意味していたのである。一方、彼は、常識的なニュートン理論の経路が、打ち消されずに大きな総和になる経路――確率が最大となる経路――であることも発見した。したがって、物理的な世界に対するわれわれの常識的な観念は、無数に存在する状態のなかで最も可能性の大きな状態に相当する。しかし、われわれはあらゆる可能な状態と共存しており、そのなかには、恐竜の時代や、近隣の超新星や、宇宙の果てにまで連れて行くようなものあるのだ(そうした突飛な経路は、常識的なニュートン理論の経路とわずかしかずれていなくても、幸いなことに確率が非常に低い)。

ミチオ・カク「パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ」





*1:MMRもSFじゃん、という意見はもっともですが、本当っぽく演出している点が違います。たとえ子供だましだろうと、当時の小学生はわりと本気で信じて怖がっていました。というか私のことなんですが。ゴジラウルトラマンが大好きでしたが、MMRはトラウマです。どういうことだキバヤシ