朝のガスパール / 筒井康隆

筒井康隆メタフィクションの極北ともいえる作品。朝日新聞の朝刊に連載されたことを利用し、読者からの投書やメールを取り入れて作品を展開するという前代未聞の実験作です。現実と相互作用している時点でメタな構造を持ったフィクションですが、小説の内部にもさらなる入れ子構造が存在します。まずオンラインゲーム「まぼろしの遊撃隊」内の世界、そのゲームのプレーヤーの世界、そのプレーヤーたちの物語を書いている(筒井康隆を模した)作家の世界。その小説の行方に影響を与える投書やBBSの世界はその上部構造としてあり、さらに究極の上部構造として私たち読者の現実世界があります。この5つの階層が互いにフィードバックしたり、その境界が曖昧になったりすることで、私たちの現実世界ですらも虚構と融け合います。それは言い換えると現実の虚構性を発見する、ということ。
「パプリカ」の登場人物もゲスト出演しており、縦に広がるだけでなく横にも広がりを見せています。うーん、やっぱこのどこまでも広がっていくような壮大さが好きです。エンタメとしてはイマイチですが、読後は普通の小説2、3冊を読んだような満足感があります。